木下晴弘「感動が人を動かす」3

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「感動が人を動かす」3
「空の上のバースディカード」

「涙の数だけ大きくなれる!」著者  木下 晴弘

私は仕事柄出張が多く、飛行機を利用することが多々あるのです。
その日は妻の誕生日でした。
仕事が詰まっており、あらためてプレゼントを品定めする時間がなかった私は、機内でプレゼントを購入しようと考えていたのです。
ところで、利用頻度の高い私は「優先搭乗」なるありがたいサービスの恩恵を受けていて、ひと足先に機内に乗り込み、機内販売の本を手に取りました。次々とお客様が乗ってこられ、用意されていた新聞を選び、自分の指定席に座っていきました。新聞はあっという間になくなったようです。
私の前の座席に座っていた方が、
「日経新聞お願いします」
とキャビンアテンダント(CA)のYさんに話しかけました。
「承知いたしました。ただいまお調べしてまいります」
洗練された受け答えをされると、Yさんは新聞の棚を確認に行かれました。そしてすぐに戻ってきてそのお客様にこう言いました。
「大変申し訳ございません。日経新聞はただいますべて出払ってしまっているようです。戻り次第お届けにあがりますので、今しばらくお待ちください。他の新聞か何かお持ちいたしましょうか?」
『ああ、すばらしい応対だなぁ』と内心そう思いながら、私は機内販売の本をめくっていたのです。ところが、その直後、今度は私の斜め後ろの方がYさんを呼び止めこういったのです。
「すみません。日経新聞お願いします!」
なんとYさんは彼にこう答えました。
「承知いたしました。ただいまお調べしてまいります」
『えっ!?』
日経新聞が今出払っていることはわかっているはずです。
『なんでそれをすぐに伝えないんだろう?』
そう思っているとYさんはすぐに戻ってきて、
「大変申し訳ございません。日経新聞はただいますべて出払ってしまっているようです。戻り次第すぐにお届けにあがりますが、先にお待ちのお客様もいらっしゃいます。それまでの間、別の新聞でよろしければとお持ちいたしました。いかがですか?」
そういって他の新聞を選べるように見せておられました。
そのときようやく気づいたのです。もし私がいま、日経新聞をお願いしたとき、その場で出払ってしまっていることを告げられたらどんな気持ちになるだろうか?
『さっきは出払っていたかもしれないけれど、こうしている間にも戻ってきているかもしれないじゃないか!確認してくれてもいいではないか!』
きっとそんなことを考えるに違いない。Yさんはそれを思わせないために、ないことがわかっている日経新聞を確認しにいったんだ!私はそのホスピタリティに驚嘆したのです。
やがて、飛行機は無事離陸し、安定飛行に入りました。それを見計らって私はYさんに、機内販売の本に載っているネックレスを購入したいと告げたのです。
「承知いたしました。しばらくお待ちください」
と先程と同じ対応が返ってきました。数分後Yさんは商品を持ってきて、
「これでよろしゅうございますか?」
と中身を確認後、それを包装しながら私に尋ねてこられました。
「プレゼントですか?」
「ええ、家内の誕生日なんです。いつも出張でいないことが多いので今日はこれを持って早めに帰ろうと思っているんですよ」
「そうでしたか!それはおめでとうございます!」
そんな会話が交わされました。
小一時間のフライトも終了。目的地に着いた飛行機から降りようとしたときでした。出口で待ち構えていたYさんが私を呼び止め、
「どうぞこれを奥様にお持ちください」
とカードを手渡してくださいました。家に帰って家内があけてみると、CAの皆さんが寄せ書きしてくださった家内宛のバースデーカードでした。
そこにはこんなことが書かれていました。
「ご主人様にはいつも当社をご利用いただいており、本当にありがとうございます。本日、奥様のバースデーとお伺いいたしました。それを私どもにお伝えくださったときの笑顔がとっても印象的でした!奥様の日ごろのサポートを心から感謝されているご様子がうかがえ、是非私達もお祝いの気持ちをお伝えしたくこのカードをお贈りいたします!たくさんの幸せがやってきますように!お誕生日おめでとうございます」
それ以来、毎年その時期になると、そのときの家内の笑顔が思い出されます。