鬼まんじゅうの研究成果報告について 志賀内さんへの手紙

鬼まんじゅうの研究成果報告について 志賀内さんへの手紙
全日本鬼まんじゅう普及協議会会長 前田英範

シガナイさん、ご無沙汰しています。007名古屋商法のメルマガオフ会でお会いしてから20年ほど、随分年月が経ちました。
ちょうどその時分に僕も全日本鬼まんじゅう普及協議会を立ち上げ活動を始めましたが怠け怠けやっているのでちっとも会が発展しません。

マスコミ取材時に「広報を通してくれ」とカッコつけて言いたいばっかりに広報部長を無理やりつくりましたが彼女は僕がそのセリフを言う機会を待つことなく社命で渡米してしまいましたので、結局今も会員1名のまま活動を続けております。

今回のお声がけを含め折々に気にかけていただいているのはありがたいことで励みにしています。せっかくなのでこれまでの20年の成果報告をさせていただきます。たいしたこともありませんが。

ウィキペディアによりますと、鬼まんじゅうとは、主に小麦粉やサツマイモを用いた和菓子。主に愛知県を中心とした東海地方の郷土菓子。と書かれています。

1 鬼まんじゅう研究のきっかけ
鬼まんじゅうはwikiの記述の通り、さつま芋と小麦粉と砂糖というオーソドックスな食材からつくられ、また蒸すことが出来れば家庭でもカンタンに作ることが出来る、大したテクニックも必要のない食べ物です。僕も母親に作ってもらった記憶があり、昔は買って食べるというより自宅で作って食べるという感覚のものでした。
あるとき、職場に差し入れのつもりで鬼まんじゅうを持って行ったら、職場のみんなは、「ナニコレ?」というのです。「何って鬼まんじゅうじゃん」「鬼まんじゅう?何それ?」「鬼まんじゅう知らないの?」「知らない」というやり取りがあり、急に心細さを感じ、鬼まんじゅうなんて、日本人なら誰もが知っていると信じていた僕に、彼らは容赦ない追撃の言葉を発したのです。
 「だってこれ鬼でもまんじゅうでもないじゃん!」
「…確かに。」
その日から、僕は鬼まんじゅうの研究を始めることを決意しました。

2 鬼まんじゅうの普及地域
なぜ職場のみんなが鬼まんじゅうを知らなかったのか。それは、彼ら全員が東海地方以外の出身だったからなのです。東京、福井、静岡、兵庫、滋賀…それでは、鬼まんじゅうという言葉が通じる地域はどこなのか。まだ確信は持てませんが、どうやら愛知、岐阜、三重の東海三県に限られるようなのです。販売店舗についていえば、北限は岐阜県萩原町、西限は三重県四日市市。東限は、静岡県湖西市で販売しているお店はありますが豊橋市のお菓子屋さんのお店であるため、事実上は豊橋市ということだろうと思います。また、同様に、柿安さん経営の口福堂さんが東京で販売している実績はありますが、それは僕の中ではカウント外です。

3 季節
通年小売販売しているといった先入観がありましたが、調べているうちに必ずしもそうではないことがわかりました。さつま芋の新芋は6月頃から出回るらしいのですが、販売の季節は9月から12月といったお店が多いのです。鬼まんじゅうを販売しはじめるとお店の前に幟が立ちます。今はさつま芋の保管技術が発達して年中販売しているお店も多いですが、1月になると芋が枯れるとか灰汁が出るというようなことでやめてしまうそうです。お店の方々が繊細に鬼まんじゅうの品質管理をされていることも発見でした。

4 商品ヴァリエーション
形について。丸く山状に小麦粉を固めたものが一般的ですが四角や三角のものもあります。四角に切ったものは岐阜方面に多い印象です。まん丸の形で「げんこつ鬼まんじゅう」という名前で販売していたお店もありました。


笹柳さんのげんこつ鬼まんじゅう。

名称について。鬼まんじゅうという呼び名が最もオーソドックスですが、芋ういろ、芋まんじゅうという名前で販売しているお店もあります。石垣まんじゅうと言っていた、という報告をいただいたこともあります。
味のヴァリエーションについて。大別してベタ系とフカ系に分かれます。フカ系はベーキングパウダー等を使った菓子パンのテイストです。本場名古屋はベタ系でもっちり小麦粉の味です。こちらが王道です。
小麦粉に混ぜ物をしないのを白とかプレーンとか言っていますが、多くのお店でいろいろな味にもチャレンジしています。生地のヴァリエーションとしては黒糖、抹茶、ショコラなど、さつま芋の代わりにかぼちゃ、栗、リンゴ、小豆などのヴァリエーションがあります。


福寿餅さんの圧巻のヴァリエーション。

そして、別商品への発展形も数々ありますがやはり極北は「鬼まんロール」。発売されたときには本当に驚きました。


レニエさんの鬼まんロール。

様々な形でたくさんのお店が新しいヴァリエーションに挑戦されています。それは和菓子屋さんだけではないのです。鬼まんじゅうは常に進化しています。
そして、それはこの地域に鬼まんじゅうを愛し支持してくださるお客さまが沢山いらっしゃるということの証左なのです。

5 鬼まんじゅう最大の謎
鬼まんじゅうは、いつ、どこで成立したのか。そしてなぜ鬼まんじゅうというネーミングなのか。この最大の謎を解明すべく研究を続けてきましたが、残念ながら未だ解明出来ていません。
しかし、幾つかの手がかりをつかんでいます。成立については、かつて「はなまるマーケット」というテレビ番組で取材していただいたときにお世話になったディレクターさんが大学などから調べてくださいました。食材がすでに日本に存在していた江戸時代まで可能性としては遡るかもしれない。ただし、庶民の口に入るには大正期まで待つことになる。とのことでした。また、愛知県はさつま芋の先進県として品種改良に励んだ結果、戦中戦後の食糧難時代にもさつま芋には恵まれていたとのこと(中日新聞 2006.9.25)。
さらに、気になっているのは、九州地方との関係です。さつま芋というぐらいですから、九州にも鬼まんじゅうがあってもいいのでは?と調べていたところ、大分県に鬼まんじゅうと全く同じ食べ物が存在していました。ただし、ネーミングは「石垣もち」といいます。


大分県の石垣もち。

そんな手がかりから、僕は、九州で発祥して愛知で発展したのではないかという仮説を立てています。集団就職の時代以前から、東海地方と九州地方とは人的交流があったように思います。
一方、鬼まんじゅうというネーミングについては諸説あり、①鬼の角説②鬼の頭説③鬼の金棒説④鬼が島説などがあり、今のところ鬼の角説が有力のようです。
鬼まんじゅうというネーミングのインパクトに負けるせいか、だんだんと少数派になっているようですが、芋まんじゅうとか芋ういろうというお店も存在していました。そう考えると、意外と鬼まんじゅうというネーミングは新しいのではないかと思ったりもします。さつま芋と小麦粉と砂糖からなるこの食べ物を、鬼まんじゅうと名付けたひとがいるならば、そのセンスは抜群に秀逸なものなのではと思います。
名古屋の菓子工業組合でも話題になるけれども真相はわからないそうです。鬼まんじゅうのお店として超有名な名古屋・覚王山の梅花堂さんの先代が名付けたというお話を聞いたことがありますが、当代にお聞きしたら「根拠のないことなのでそういうことは言わないでほしい」と言っておられました。世の中、ネーミングについて元祖だ本家だと主張するようなことが多かったり、商標登録を巡る争いなどが横行する中で、なんと奥ゆかしいことでしょうか。
とまれ、謎は謎のままでもいいじゃないかという気分でもあります。

6 鬼まんじゅうよ、永遠に。
最後に、かつて僕のホームページの掲示板にくださった印象的な書き込みをご紹介してご報告のおしまいとします。

~掲示板の投稿より~
「うちの実家は名古屋駅の裏で,中野製菓という屋号で鬼まんじゅうを作っています。
製造のみで店舗はありませんのでそんなところで鬼まんじゅうを作っていることはほとんど知られていません。
一年中作っているので僕の中では季節感もなくいつもあるものです。
でもうちの親父が1つ数十円の鬼まんじゅうを黙々と作ってそれで育てられたかと思うと
たかが 鬼まんじゅう,されど 鬼まんじゅう といった感じです。
鬼まんじゅうよ,永遠に。」

以上です。シガナイさん、お身体大切に、ご活躍ください。

全日本鬼まんじゅう普及協議会ホームページ
http://www1.s3.starcat.ne.jp/oniman/