「義足のランナー」(その2)~現状を受け入れる3つのこと

~現状を受け入れる3つのこと 志賀内泰弘

島袋勉さんは、リハビリを進めるうち、「現状を受け入れなければならない」ということに気付いたといいます。両足が無くなってしまったとか、身体障害者になってしまったとか。そんなことで、ショックを受けていてはいけないんだと。
かといっても言葉で言うのは簡単です。それをどうやって自分の行動で表したらいいのか。次の3つのことを考えたそうです。

一つ目は、「無い物ねだりをしないこと」です。
無くなった二本の足は、もう二度と生えてきません。だから、「足があれば」という言葉を使わないでおこう。何かできないことがあった時に、「足があればできるよ」などと言わないようにしよう、と決めたのです。

二つ目は、「言い訳をしないでおこう」ということでした。何かできないことがあった時、「足が無いからできないんだ」とか、「記憶障害があるから覚えられないんだ」「目が悪いからできないんだ」などという「言い訳」を、けっして言わないぞ、と決めたのです。
そして三つ目。それは、「自分の悪いところを隠さないでおこう」と思ったのでした。

島袋さんの講演を聴き、著書も読んだ私は、もっと、もっとその熱いハートに触れたくて会いたくなりました。連絡を取り、初めての面談に出掛けました。待ち合わせ場所は、沖縄の那覇市内にあるホテルのラウンジでした。島袋さん、ずっとサポートして来られた妹の智美さんと一緒に現れました。
私は、その姿を見た瞬間、ドキッとしました。両足は義足です。もちろん知っています。でも、短パンをはいているので、膝から下には金属の義足がむき出しになって見えていたのです。サッと差し出された手と握手をしながら、私は少し動揺していました。てっきり、長いズボンを履いていると思い込んでいたからです。
私たちの隣の席のご婦人方は、その姿を見てギョッとした表情をされました。もちろん、島袋さんは何も気にしていません。

話の途中で、その「短パンスタイル」のことにご自分から触れられました。島袋さんがニューヨークへ行かれた時のことだそうです。街中を歩いていて、信号待ちで交差点に立っていた。すると、何人もの通行人が「両足とも義足」であることが珍しくて、近寄って来て眺める。その中の一人の幼い子供が島袋さんの両足を指差して、ママに向かって言ったそうです。
「なんで足がないの?」
島袋さんは言います。
「日本だったら、こういう時、母親は『見ちゃいけません』というような、見て見ぬフリをさせます。でも、アメリカでは違ったのです」
幼い子供のママは、「足が無くなったから、義足をしているんだよ」と、ちゃんと説明したといいます。

この話を聞いて、私も思い当たることがいくつもありました。電車に乗っていて、同じ車両に乗り合わせた知能の障がいのある人が、少し大きな声を上げた時のことです。小学生の子供が「何言ってるの?」と母親に尋ねたら、母親は「シー」と口に手を当てて子供を強く引き寄せたのでした。まるで、「関わっちゃダメ」とでも言うように。
私の弟は、心身ともに障がいがあります。多くの人たちの善意によって生きて来られました。でも、「見て見ぬフリ」という空気を何度も間近にしたことがありました。

さて、ここで島袋さんの「現状を受け入れる3つのこと」に戻ります。最後の1つの「自分の悪いところを隠さないでおこう」です。島袋さんは、これは「見てわかる」ことなので、比較的簡単に実行できると言います。そうです。短パンで義足をニョキッと出すだけなのですから。でも、私だったら、それができるだろうか。普通なら、自分の弱点、欠点は見せたくない。いや、隠したいものです。ましてや・・・。それを笑顔でやっている。なんという強い人なのだろうと尊敬しました。

島袋さんは、社会復帰を遂げマラソンに挑む過程で、「これまで、たくさんの人たちから手を差し伸べてもらった。何か恩返しをしよう」と考えました。そこで、講演活動を始めたのです。その数は、1.150回を超えました。特に小・中・高等学校での講演が多く、地元沖縄では、かなりの有名人です。

その際、島袋さんは、あえて長ズボンをはかないそうです。いつも短パンで義足を見せます。それだけではありません。壇上で椅子に腰かけ、カチッカチッと義足を取り外して、子供たちに切断された膝と義足を見せるのです。
当然、子供たちはショックを受けるでしょう。でもそれは、子供たちに「どんな苦難にも負けない心」を養ってもらいたいからだと言います。

そのため、島袋さんがスーパーに買い物に出掛けると、見知らぬ子供たちが駆け寄ってくるそうです。
「島袋さーん」
と親しげに。学校で講演を聴いたことのある子たちです。
ある時、島袋さんが街を歩いていると、一人の小学生が息せき切って走り寄って来ました。そして、夢中で話し掛けられたそうです。
「僕ね、◇◇小学校の○○△男です。夢はサッカー選手になることです」
彼にわざわざ「将来の夢」を宣言しに来たのでした。
そうです!間違いなく、島袋さんの行動は、多くの人たちに勇気を与えているのです。

またある日のこと。朝,自転車で走っていて信号待ちで止まっていると、
「島袋さーーん」
と声がしました。歩道を見ると高校生がいました。目が合うと、
「昨年,お話ありがとうございました。僕もがんばります!」
と、一礼してくれたそうです。
「現状を受け入れる3つのこと」
それは身体にハンディを持つ持たないに関わらず、すべての人を「幸せ」に導く「生き方」です。