素敵な恋にも周到な計画を

みやざき中央新聞・魂の編集長の「ちょっといい話」第十二回

「素敵な恋にも周到な計画を」
水谷もりひと

『新婚さんいらっしゃい!』は大阪の朝日放送テレビが制作している視聴者参加型のトーク番組です。第一回放送は一九七一年一月三十一日ですから、今年で四十七年目になります。
アシスタントの女性タレントは現在の山瀬まみさんが7人目ですが、司会者の桂文枝さんは変わっていません。これはすごいことです。つまり、同一司会者によるトーク番組としては世界最長ということで、2015年にギネス世界記録に認定されたのです。
日曜日のお昼の番組なので、皆さん、たまに見ることもあるのではないでしょうか。僕も、日曜日に特に何もすることがなかった子どもの頃は、お昼ご飯の延長で、よく見ていました。大人になってからはほとんど見ることはなくなりました。ところがその日、偶然見てしまったのです。おそらくこの十年の中では見たのはその一回だけだと思います。それがめちゃくちゃ面白かったというか、その日出演していた新妻さんの話に深く感心してしまったのです。
彼女は身長が一八〇センチくらいありました。今まで何人かの男性と付き合ったのですが、みんな彼女より背が低かったそうです。一緒に歩いても居心地が悪く、「私より背の高い『白馬の王子』が現れないかなぁ」とずっと思っていたといいます。
しかし、ある日一念発起します。「『白馬の王子』なんて待っていても現れるはずはない。待ちの姿勢はアカン。こっちから攻めていかな」と思い、彼女はインターネットで長身者専用の出会い系サイトに登録しました。
しばらくして一九〇センチを超える一人の男性が引っかかりました。メールで何度か交信し、「この人なら…」と思って、会う約束をしました。
大阪在住の彼女は彼の住む東京に行きました。横浜駅近くのホテルを取り、その近くの居酒屋で初めて対面しました。久しぶりに男を見上げたそうです。
実際会って話をして、まじめな人であること、仕事もちゃんとしていること、結婚相手に不足はないことを確認しました。話は盛り上がり、気が付くと時計の針は午前零時を回っていました。終電も出てしまい、彼は家に帰れなくなりました。
そこで彼女は一世一代の勝負に出たのです。「私、近くのホテルを取ってるんやけど、泊まってもええよ」
男性はついてきました。彼女は勝利を確信しました。そして部屋に入ると大胆な行動に出ました。彼のワイシャツのボタンを外し始めたのです。
それから結婚式まで時間はかかりませんでした。「あっぱれ!」ですね。
いやいやいや、もしかしたらすべて彼女の計画通りだったのかもしれません。初デートの場所を彼の住む東京ではなく、少し離れた横浜にしたこと。自分は電車に乗らなくていいように宿泊するホテル近くの居酒屋をデート場所に選んだこと。終電がなくなるまで話し込んだこと。
そう言えば、昔、似たような「婚活物語」を絵本で読んだ記憶がありませんか。継母に育てられた少女は、お城の舞踏会に行くチャンスを狙っていました。しかし、継母とその娘たちにいじめられていたので、「私も舞踏会に行きたい」とは言えません。もちろん言うつもりもありません。自分の計画を誰にも知られてはいけなかったからです。
舞踏会の当日、案の定、継母と2人の娘は彼女を残してお城に出掛けました。3人が出て行ったことを確かめると、急いで隠し持っていた亡き母親のドレスに着替え、ガラスの靴を履き、馬車が来るのを待ちました。日頃、奴隷のように家事労働させられている彼女には下僕たちと深い絆がありました。彼女の為に馬車の一つくらい出してくれる仲間がいたのです。
舞踏会では運よく王子と踊るチャンスが来ました。踊りながら彼女は一世一代の勝負に出ました。王子の耳元でこうささやいたのです。
「午前零時前に帰ります。階段のところに片方の靴を忘れていきます。後で私を探しに来て!」
この「婚活物語」はなぜ幼児の間で広がったのか分かりませんが、幼児向けに編集するとき、彼女は魔法使いのおばあさんに魔法を掛けられて変身したことになりました。でもそれには無理がありました。だって魔法がとけたとき、ドレスや馬車は元に戻ったのに、ガラスの靴は戻らなかったのですから。
実際に魔法に掛かったのは王子のほうだったのではないかと思います。男心をくすぐる彼女の積極性と彼女の言葉に…。
若い人たちには素敵な恋をしてほしいと思っています。ただロマンチックな恋を実らせるには周到な計画も必要かもしれませんね。