年を取るのは避けられないけど…

みやざき中央新聞・魂の編集長の「ちょっといい話」第六回

「年を取るのは避けられないけど… 」
水谷もりひと

言われなくても分かっていることですが、やはりお年寄りから学ぶことは多いです。
先日こんなファックスが流れてきました。ある講演会の講師をされていた人の話です。
男性参加者が多い講演会では、講師がどんな話をしても反応が返ってこないことが多く、講師もやりにくかったりします。
ところが、その講演会では一番前に百歳のご老人が座っていました。あらかじめ主催者の人から「あの方は今年百歳です」と聞いていたのです。
その方が、一つひとつの講師の話に頷きながら聞かれていたので、講師はとても話しやすく、そのご老人の目を見ながら話すことも多かったそうです。
講演会終了後、講師はご老人に「今日はご参加いただき、ありがとうございました。講演の内容はご理解できましたでしょうか?」と聞いたら、「いや、私は耳 が遠くて全然聞こえませんでした」とさらりと答えられました。「ただ、あなたが一生懸命話されていて、その気持ちが伝わってきました」と頭を下げられたそ うです。
その話を聞いて、講師は感銘を受けました。「今日、とても話しやすかったのはこの方のおかげ。自分もこの方のように年を取りたいものだ」と。

また別のお年寄りは七十歳を過ぎた頃から人工透析の治療を受けるようになり、歩行も困難になってきました。
ところが、最近九十歳になれたのですが、ある研修会に参加したとき、「奥さんに感謝しましょう」という話を聞きました。そのご老人は今まで妻への感謝が足りなかったと反省し、それから毎日妻に労いの言葉を掛けることを意識して実践することにしました。
「一緒にいる年数が長いので、労うことがあり過ぎて病気どころではなくなりました」と、今では自分の足で歩けるまでに回復したそうです。
何歳になっても謙虚さ、素直さが大切ですね。

さて、以前取材で聞いた話なのですが、愛知県豊田市に、宿泊やレストラン、ショッピング、生産工場、観光などを兼ね備えた『百年草』という複合施設があり ます。 お年寄りが集まって遊んでいる施設ではありません。ここではおじいちゃんたちが施設内のハム工場で働いています。その名も「ZIZI(じじぃ)工 房」。
おばあちゃんたちはおばあちゃんたちでパンを作って働いています。こっちは「ばばぁ工房」ではありません。「バーバラはうす」というシャレたネーミングのベーカリーです。
「年金をもらって好きなことをして余生を過ごす」のも悪くはありませんが、そこのお年寄りのように「働いて誰かを喜ばせて給金をもらう」という余生もなかなかいいものですね。
「人生最後まで『きょうよう』と『きょういく』」という言葉があります。「きょうよう」とは「今日用がある」、「きょういく」とは「今日行くところがあ る」という意味です。病気になったら仕方がありませんが、身体が健康なうちは、「やることがある」「行くところがある」、これをお年寄りに提供するのが、 これからの福祉の大きな役割ではないかと思います。

その「百年草」には時々大学で福祉を学んでいる女子大生が視察に来ることがあるそうです。そういう日は、その日休みになっているおじいちゃんも必ず出てく るそうです。若い女性から「おじいちゃん、若いですね」と言われたり、「頑張ってください」と声を掛けられることが一番の喜びだからです。もちろんその日 の生産量が普通の日より多いのは言うまでもありません。
担当者の話よると、おじいちゃんが元気に働く秘訣は、「やっぱりあんたじゃないと困る」「これはあんたじゃないとできん」という頼りにされる言葉なのだそうです。それを若い女性から言われたら、男性の健康寿命は相当伸びるのではないでしょうか。
年を取るのは誰でも避けられませんが、どのように年を取るのかは人それぞれですね。

プロフィール
みやざき中央新聞 魂の編集長
学生時代に東京都内の大学生と『国際文化新聞』を創刊し、初代編集長となる。
平成元年にUターン。宮崎中央新聞社に入社し、平成4年に経営者から譲り受け、編集長となる。
24年間社説を書き続け、現在も魂の編集長として、心を揺さぶる社説を発信中。

◇これまでの活動
平成11年 MRTラジオ暮らしのレーダーで、「男性学講座」を担当
平成12年・13年 MRTラジオで「みやざきトゥデイ」を担当
平成13年・14年 サンシャインFMで「時代を語る」を担当
平成16年 宮崎県男女共同参画推進功労賞受賞
平成19年~20年 宮崎市男女共同参画審議会委員
平成18年~23年 宮崎家庭裁判所参与員
平成25年 社長と共にコンゴ民主共和国に渡り、現地視察と読者会開催
平成26年 宮崎県日向市ドリームプランプレゼンテーション出場 感動大賞・共感大賞 W受賞

◇現在の活動分野
働く人の心のケアをする厚労省認定産業カウンセラー

◇趣味
育児、家事手伝い
平成21年 宮崎に開校した俳優養成所に入所し、いろいろなCMに出演

◇著書
『空から宮崎を見れば』(宮崎中央新聞社)
『みやざき発夢未来』(鉱脈社)
『男と女の夢未来』(鉱脈社)
『日本一心を揺るがす新聞の社説』(ごま書房新社)
『日本一心を揺るがす新聞の社説2』(ごま書房新社)
『日本一心を揺るがす新聞の社説ベストセレクション(講演DVD付)』(ごま書房新社)
『この本読んで元気にならん人はおらんやろ』(ごま書房新社)