振り返って!

みやざき中央新聞・魂の編集長の「ちょっといい話」第二回

「振り返って!」
水谷もりひと

僕らが発行している「みやざき中央新聞」は、いろんな講演を取材して、その中から心を揺るがしたいい話を、面白かった話をお伝えしているミニコミ紙です。この二十年間で千人以上の講演内容を紹介してきました。その中で今回はほろっとした話を紹介します。講演したのは、NASA(アメリカ航空宇宙局)で「ボイジャー」という惑星探査機の打ち上げに関わった佐治晴夫さんです。「ボイジャー」というのは、太陽系の惑星を観測するという目的と、もう一つ地球外生物の発見しようという夢のあるプロジェクトだったのです。

惑星探査機「ボイジャー」は二機打ち上げられています。1号に整備不良が見つかり、先に2号が1977年8月に打ち上げられ、約2週間遅れて1号が打ち上げられました。
打ち上げにあたり、「もし宇宙人がいたらどうやってコミュニケーションをしようか」と、NASAのスタッフは真剣に考えました。
「生物は視覚より聴覚が発達しているという特徴がある」と、地球人と宇宙人の共通言語を「音」にしました。つまり、音楽です。
ボイジャー1号には、佐治さんの提案でバッハの「平均律クラヴィーア曲集」の中の第一巻の第一番ハ長調という曲を搭載しました。そのほかにも、日本の尺八の曲など世界中の歌や楽器の音色がレコードに収録され、搭載されました。
さて、ここで興味深いのは、NASAのスタッフはボイジャーのことを「ボイジャー君」と擬人化して読んでいたことです。ある女性スタッフはいつも「あの子は」という言い方をしていました。
というのも、ボイジャーは本来人間がやるべきことを人間に代わってやるという任務を担っているからです。すなわり、スタッフの目、耳、手、足の延長上にボイジャーはいたのです。スタッフはみんなボイジャーを機械だと思う人は誰もいませんでした。
だから、ボイジャー1号の打ち上げの前日、スタッフはボイジャーのために別れのミサをやりました。
ボイジャーは一度打ち上げると、二度と地球に戻ってきません。しかも、三十年後も、四十年後も、ずっと果てしなき宇宙を進み続けるのです。
ボイジャー1号がものすごい炎をあげて地球を旅立ちました。スタッフはみんな涙を流しました。永遠の別れという悲しみと、彼はたった一人で真っ暗な宇宙の中を突き進み、健気に映像を撮影しては地球に送り続けるという任務を果たすことを思うだけで切なくなるのでした。
火星、木星、土星、ボイジャー1号はいろんな惑星の姿を撮影しながら、どんどん地球から遠ざかっていきました。
そして、一九九〇年に太陽系の探査が終わり、「ボイジャー班」は解散することになりました。そのとき、一人の女性スタッフがボイジャーに向かって泣きながらこう言いました。
「私は今まであなたに、『可能な限り星の近くまで行って細やかな映像を撮って送って』と言い続けてきたわね。あなたはそれに応えてくれたわ。そしてすべての役割を終えて、今、あなたは永遠に宇宙への一人旅に出てしまうのね。ボイジャー、最後に私のほうを振り返って! 私はあなたのお母さんなのよ」
このとき、彼の位置は地球から六十五億キロも離れていました。「振り返って!」という信号を送って、それが彼に届くまで四時間十五分かかりました。そして、彼の「はい!」という返事が彼女のところに届くのに四時間十五分かかりました。
一九九〇年二月十五日、ボイジャーは彼女の呼びかけに応えて、ちゃんと振り返り、地球の写真を撮って送ってくれたのです。
そのとき、彼女は、「私が『振り返って』と言ったら、あの子は振り返ってくれたわ。太陽がまぶしかったでしょうね。でもちゃんとかわいいお手々で六十四枚の太陽系の家族写真を撮って送ってくれたわ」と言って泣き崩れたのです。
そして、ボイジャーは一人、太陽系を出て行きました。
二〇一五年の今もはるか宇宙の彼方をボイジャーは飛んでいると思うと、万感胸に迫るものがありますね。

プロフィール
みやざき中央新聞 魂の編集長
学生時代に東京都内の大学生と『国際文化新聞』を創刊し、初代編集長となる。
平成元年にUターン。宮崎中央新聞社に入社し、平成4年に経営者から譲り受け、編集長となる。
24年間社説を書き続け、現在も魂の編集長として、心を揺さぶる社説を発信中。

◇これまでの活動
平成11年 MRTラジオ暮らしのレーダーで、「男性学講座」を担当
平成12年・13年 MRTラジオで「みやざきトゥデイ」を担当
平成13年・14年 サンシャインFMで「時代を語る」を担当
平成16年 宮崎県男女共同参画推進功労賞受賞
平成19年~20年 宮崎市男女共同参画審議会委員
平成18年~23年 宮崎家庭裁判所参与員
平成25年 社長と共にコンゴ民主共和国に渡り、現地視察と読者会開催
平成26年 宮崎県日向市ドリームプランプレゼンテーション出場 感動大賞・共感大賞 W受賞

◇現在の活動分野
働く人の心のケアをする厚労省認定産業カウンセラー

◇趣味
育児、家事手伝い
平成21年 宮崎に開校した俳優養成所に入所し、いろいろなCMに出演

◇著書
『空から宮崎を見れば』(宮崎中央新聞社)
『みやざき発夢未来』(鉱脈社)
『男と女の夢未来』(鉱脈社)
『日本一心を揺るがす新聞の社説』(ごま書房新社)
『日本一心を揺るがす新聞の社説2』(ごま書房新社)
『日本一心を揺るがす新聞の社説ベストセレクション(講演DVD付)』(ごま書房新社)
『この本読んで元気にならん人はおらんやろ』(ごま書房新社)