二人はそこそこ幸せでした・・・「かさじぞう」の話

みやざき中央新聞・魂の編集長の「ちょっといい話」第一回

「二人はそこそこ幸せでした・・・『かさじぞう』の話」
水谷もりひと

僕らが発行しているみやざき中央新聞は、いろんな講演会を取材して、その中から
心に残ったいい話、感動した話、為になった話などをお伝えしているミニコミ紙で
す。この二十年間で千人以上の人の講演内容を紹介してきました。
中でも僕が好きなのは絵本作家の方が語る絵本の話です。絵本の読み聞かせはお母
さんが子どもにしてあげたり、保育園や幼稚園でもよく見られる光景ですが、作家さ
んご自身が絵本の世界を語るのですから、何とも味わい深いものがあります。と同時
に大切なことに気付かされます。

田端誠さんは二十歳のときに絵本作家を志し、三十一歳のとき、『鳥の島』という
絵本でデビューしました。
田端さんが最初に衝撃を受けた絵本は『かさじぞう』(文・瀬田貞二、画・赤羽末
吉)でした。有名な絵本なのでストーリは誰でもご存じだと思います。そう、大晦日
の日にじいさんが笠を売りにいくお話です。町に行って笠を売り、そのお金でお餅を
買って、お正月を迎えようというわけです。
田端さんはじいさんとばあさんの会話にちょっとしたユーモアがあるといいます。
たとえば、じいさんの「ばあさん、ばあさん。笠を五つもこしらえた」と自慢すると
ころです。「町へ行って正月の餅買ってくる。今年こそはいい年をとるべな」と言う
じいさんに、ばあさんは、「はいはい。じゃ、火ぃたいて待ってるから」と言ってじ
いさんを送り出します。「はいはい」と言い方から、「ばあさんは全然期待していな
いな」と田端さんは行間を読み解きます。「今年こそ」と言っているわけですから、
おそらく去年も一昨年も売れなかったのではないかと思われますよね。

町の風景では、赤羽さんの絵に田端さんは注目します。じいさんの笠は町の人から
見向きもされません。その「見向きもされない」ことを表現するために、町の人たち
は背中しか描かれていないのです。じいさんにくっついて来るのは黒い犬だけです。
「あたり一面は雪なので犬の色は白ではなく黒にしたんだな」「じいさんをかまって
くれたのは犬だけだったんだな」と田端さんは考えます。

結局、笠は一つも売れずに帰路に着きます。途中でおじぞうさまに出会います。お
じぞうさまは全部で6体。でも売り物用に持っていった笠は五つ。一つ足りない。そ
こでじいさんは自分の笠を被せます。ここが見せ場ですね。

じいさんが家に帰ると、ばあさんが「おじぞうさまにあげてよかったな。そだら
ば、漬物ででも年をとるべ」と、ちゃんと両手を差し伸べてじいさんを迎えるところ
が、本当にこの夫婦は仲がいいんだなぁと思わせます。
そして寝静まった後、「よういさ、よういさ、よういさな」と、どこからかソリ引
きの声がしたかと思うと、その声は二人の家の前で止まります。戸を開けると、正月
用のお餅や魚や小判がどっさり詰まった、数えきれないくらいの俵があったという話
です。
最後に「それから二人は幸せになりました」と書いてあります。

「ここで大事なことに気付かないといけない」と田端さんは言います。「それか
ら」幸せになったわけじゃなく、この二人はもう既にそこそこ幸せだったということ
です。
確かに暮らしは貧乏でした。でも「笠を五つもこしらえた」と子どもみたいに自慢
したり、一生懸命売ったのに売れなくて、帰りにそれをおじぞうさまに被せてあげる
という優しい心がありました。それを「よかったね」と受け止める奥さんがいまし
た。
幸せを感じるために必要なものがもうこの二人にはあったのです。

普通だったら、そんなお宝をもらったら、二人して大喜びすると思います。でも、
絵を見るとそんなに大喜びしていません。つまり、お宝に恵まれたから幸せになった
のではなく、どんな境遇にあっても、そこにちょっとしたユーモアがあり、相手を思
いやる優しさがあり、家の中に不平不満や愚痴のない生活があったら、もう人はそこ
そこ幸せなんですね。

田端さんは絵本作家の目でこの絵本の読み方を教えてくれました。

プロフィール
みやざき中央新聞 魂の編集長
学生時代に東京都内の大学生と『国際文化新聞』を創刊し、初代編集長となる。
平成元年にUターン。宮崎中央新聞社に入社し、平成4年に経営者から譲り受け、編集長となる。
24年間社説を書き続け、現在も魂の編集長として、心を揺さぶる社説を発信中。

◇これまでの活動
平成11年 MRTラジオ暮らしのレーダーで、「男性学講座」を担当
平成12年・13年 MRTラジオで「みやざきトゥデイ」を担当
平成13年・14年 サンシャインFMで「時代を語る」を担当
平成16年 宮崎県男女共同参画推進功労賞受賞
平成19年~20年 宮崎市男女共同参画審議会委員
平成18年~23年 宮崎家庭裁判所参与員
平成25年 社長と共にコンゴ民主共和国に渡り、現地視察と読者会開催
平成26年 宮崎県日向市ドリームプランプレゼンテーション出場 感動大賞・共感大賞 W受賞

◇現在の活動分野
働く人の心のケアをする厚労省認定産業カウンセラー

◇趣味
育児、家事手伝い
平成21年 宮崎に開校した俳優養成所に入所し、いろいろなCMに出演

◇著書
『空から宮崎を見れば』(宮崎中央新聞社)
『みやざき発夢未来』(鉱脈社)
『男と女の夢未来』(鉱脈社)
『日本一心を揺るがす新聞の社説』(ごま書房新社)
『日本一心を揺るがす新聞の社説2』(ごま書房新社)
『日本一心を揺るがす新聞の社説ベストセレクション(講演DVD付)』(ごま書房新社)
『この本読んで元気にならん人はおらんやろ』(ごま書房新社)