中村由美さん「日本一の秘書」の話②~100年早い」

中村由美さん「日本一の秘書」の話
~100年早い!」②
志賀内泰弘

中村さんは、カレーハウスCoCo壱番屋で創業者の宗次德二さんなど3人の社長に25年間も仕えてきました。
そして、今回、初めての著書「日本一秘書の気配り力」祥伝社黄金文庫が刊行されました。
この中には、入社当時の失敗話、苦労話も披露されています。
今日は、その中から一つ、紹介しましょう。

中村さんが入社して早々、総務部で働き始めたときのことでした。
総務の大事な仕事の一つに受付があります。当時、壱番屋では仕事の習熟度に応じて前から順に座る席が決まっており、お客様がいらっしゃったり、電話が鳴ったときも、その席順に従うこととされていました。
つまり、一番前に座る人が来客や電話に応対するシステムになっていました。
ある日の昼休みのことです。
その日に限って、お昼に何本もの電話がかかってきました。みんな対応に追われていたので、中村さんが電話を取りました。
すると、商品の納入業者さんからの問い合わせでした。
「恐れ入りますが、もう一度お名前を伺ってもよろしいでしょうか。○○商事の○○様ですね。確かに中村が承りました。担当の○○が戻りしだい、ご連絡さしあげます。お電話ありがとうございました」
先方が電話を切るのを確認し、受話器を置いた、その時でした。
「そんな対応では、電話に出るのはまだ早い」
と、後ろから鋭い一言が飛んできました。びっくりして振り返ると、いつの間にか、そこに創業者の宗次德二さんが立っていました。
中村さんは、なぜ、叱られたのか、頭がパニックになったそうです。
(なぜ?志賀内にもわかりません)
後になって、知らされたこと。
壱番屋では、取引先から電話があった場合、相手に名前を聞き直したりお待たせするのはタブーで、それこそ社名を聞いただけで、「○○さまですね」
と、担当者の名前まで言えるようでなければならないとされていたのです。
だから、相手の会社名が聞き取りにくくても、声を聞いただけで、「○○さまですね」と担当者に繋ぐことができる。聞き直したこと自体が良くないというのです。
お客様の立場に立って、煩わしい負担は一切かけない。その負担はすべてこちらが負う。それが、壱番屋のやり方だと。
(なんて厳しい会社でしょう)

でも、これを機に中村さんは、猛烈にお客様の社名や担当者(そして声までも)を覚えたそうです。
そして、ついには、一番前の席に座れるようになれました。
そして、そして、さらに、社長秘書に抜擢されたのでした。

中村さんに電話をすると、いつも清々しい気分になれるのは、そんな秘話があるからだったことを今さらながら知りました。
たかが、電話の取り方一つで、人生が変わってしまうこともあるのですね。