第41回「プチ紳士はどこにでもいる」

熱血先生 今日も走る!!!
       「子は宝です」 第41回
                  
「プチ紳士はどこにでもいる」
                                   中野 敏治

 私たちは目の前にあるすべてのものは、自分の目で見えていると思っています。でも、目の前にあるものすべてが本当に見えているのかというと、そうではありません。
 教育者である山田暁生氏は、例えとして夜空の星の話をされました。夜空には星がたくさんあります。私たちは夜空を見上げた時、その瞬間に見える星にしか気づきません。でも、じっと夜空を見つめていると、今まで見えていなかった星も見えてきます。さっきまで見えていなかった星は、見えなかっただけで、そこには間違いなく存在していたのです。見ようと意識をすると、今まで見えていなかった星も見えてくるのです。
 こんな話もされました。私たちの耳は、聞きたいことだけ聞いているというのです。確かに大勢の人がいて賑やかな場所でも、会話をしている相手の声がちゃんと聞こえます。でも、そっと目をつむり、耳をすますと今まで聞こえていなかったさまざまな音が聞こえてきます。人は意識したものが見え、意識したものが聞こえているのです。
 私たちの周りには、たくさんのプチ紳士がいます。志賀内泰弘氏が「プチ紳士・プチ淑女を探せ!運動」を行い、この「プチ紳士からの手紙」でたくさんのプチ紳士を紹介されてきました。この活動は一旦、2023年2月で終えますが、私たちはこれからもプチ紳士の存在を意識することでたくさんのプチ紳士に気づき、プチ紳士に出会い、そして自らもプチ紳士になり、世の中を温かくしていくことができます。
 「世の中にはこんなにもたくさんのプチ紳士がいるのだ」という意識の目を持つことで、この活動はさらに広がります。意識すれば今まで見えていなかったものも見えてくるのです。今まで気づかなかったことにも気づくことができるのです。フォーカスしましょう。温かい世の中を作るプチ紳士たちに。
 先日、私が出会ったプチ紳士を紹介します。
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兄妹の物語
小学校1年生くらいの妹と小学校3年生くらいの兄。ふたりはいつも一緒に登校していました。
登校中に市役所の近くで妹が転び、膝から血が流れ出てしまいました。兄はびっくりしながらも、泣いている妹をなだめ、ポケットからハンカチを取り出し妹の膝にあてました。でも、妹は涙が止まりません。妹は痛みをこらえるように我慢しながらも膝から流れる血を見れば見るほど、体を震わせ涙があふれ出てきました。兄は妹の背中からランドセルをおろし、立ち起こそうとしても、顔を下に向けたままの妹はポタポタと地面に涙を落とすばかりです。
 そのとき、近くをスーツ姿の男性が通りかかりました。その男性は、すぐに状況を把握し、妹の腕を支え、立たせてあげました。妹のランドセルは兄が持ち、その男性と妹と一緒に小学校まで行ったのです。昇降口に着くと、兄は先生を呼びに駆け足で校舎に入っていきました。先生と一緒に戻ってきた兄は、市役所の近くで妹が転んだこと、男性が助けてくれたことなどをその場で先生に話をしました。
 男性はひと安心して、「もう仕事が始まっていますので、これで失礼します」とその場を去りました。

 その翌日、市役所に電話が入りました。怪我をした子どものお母さんからです。「怪我をした我が子を気遣いながら学校まで送ってくれた方が市役所の方であれば…」との問い合わせでした。
 その電話を受けた市役所は、市役所内で全職員が見ることができるパソコンの掲示板に載せました。「心当たりの方がありましたらご連絡ください」と。でも、現れませんでした。市役所内にはその男性はいないのかも。それでも市役所近くでの怪我。見た人がいるかもしれないと、各部署を聞いて回りました。正規職員ではなく、月に数日出勤していた男性だと分かりました。そのことを電話をくれたお母さんに連絡をすると、「その方にお礼をしたい」と、市役所まで来たのです。
 「私は東日本大震災で、被害に遭い、神奈川県に引っ越してきたものです。もう10年以上たちますが、やっと見知らぬ土地での生活に慣れてきたところです。でも、こんなにやさしい方に娘や息子が出会えたことがとてもうれしいです」と話されたのです。
 男性が出勤時間に間に合わないと思いながらも、兄妹を気遣い、学校まで送ってくれた姿に母親はものすごく感動していました。
 兄妹はきっとこの日の出来事を忘れずにいるでしょう。そして、母親もこの日の男性の姿をいつまでも子供たちに伝えていくことでしょう。
 プチ紳士は、私の身近なところにもいました。
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このプチ紳士は私の知り合いでした。彼が灯した一つのあかりは多くの方の心を温かくしました。彼がなぜとっさにこんな素晴らしい行動ができたのでしょうか。それは彼の普段の生活にありました。
彼はクリスマスになると、毎年、自らサンタクロースの衣装を着て、親戚中の子どもたちにプレゼントを渡しているのです。子どもたちは毎年クリスマスが来るのを楽しみにしているといいます。夏には山から長い竹を切ってきて、お盆に親戚中が集まるとその竹を使ってみんなで流しそうめんをするのが恒例行事だといいます。彼は常に人を喜ばすことを考えているのです。
家族の中にも、職場にもたくさんのプチ紳士がいます。そのプチ紳士たちは、どんな場面でも人の心に火を灯すのです。