第29回「子供の心との出合いは、いつでも、どこにでもある」

熱血先生 今日も走る!!!
       「子は宝です」 第29回

「子供の心との出合いは、いつでも、どこにでもある」
中 野  敏 治

 

 誰でも毎日通っている通勤路はだいたい決まっているものです。私も知らぬ間に決まった道路を通って通勤をしていました。それは無意識のうちに、できるだけ人通りが少ない大通りで通勤をしていました。
ある日、少し狭い道路を通って通勤をした日がありました。その道路は生徒の通学路でもあります。生徒の通学の様子を見たい気持ちもあったのです。
学校で指定された通学路なので、大勢の生徒が歩道を歩き、学校へ向かっていました。そのため、いつも通っている大通りとは違い、スピードを落として走りました。
 対向車が来て、さらにスピードを落とした時です。ある生徒が私のほうを振り向いたのです。そして私に気が付き、私のほうを見て「おはようございます」というように頭を下げたのです。私も運転席から頭を下げ、彼に挨拶をしました。
 翌朝も、その道路を通りました。彼が私のほうを見て昨日と同じように私に頭を下げるのです。私も昨日と同じように彼に頭を下げ、挨拶をしました。
 それからは、同じ時間に家を出て、同じ時間にその道路を通るようになりました。彼も毎朝同じ場所を歩いていました。彼はいつもの場所にくると、振り向いて私の車を待っているようにさえ感じました。そして、毎日、同じように彼と挨拶を交わしました。

 ある日、私が家を出る時間が少し遅れた日がありました。彼が歩いている道路を通過するとき、彼が何度も何度も振り向いていることに気が付きました。
 私の車が来るのを待っていたのです。そしていつもと同じように挨拶をしました。

 午前中の出張で、朝から職場に行かず出張先に行く日がありました。午後に職場に行くと校長室前に彼がいるのです。
 ぽつりぽつりと私に話しかける彼です。「校長先生、今日はどうしたの?」と。「朝から出張で今、学校に来たんだよ」と言葉を返しました。「今日は調理実習をするから先生来てよ」と私を誘ってくれたのです。

 通勤路を変えて、偶然出会った一人の生徒。その生徒と毎日挨拶をするようになった。毎朝、お互いに挨拶を交わす存在になっていた。お互い、朝、会えないと不思議な気持ちになっていた。彼は特別支援学級の三年生だった。

 中学校を卒業し、特別支援学校に行っても時々中学校に顔を出すときは、必ず私にも声をかけてくれる生徒です。

 子供たちとは、いつでも、どこでも繋がることができるチャンスがあります。偶然であったとしても繋がれるその一瞬を大切にしていきたいです。

 初めて、生徒の通学をあえて通って通勤したあの日、彼が私に挨拶をしたことに気づかず通り過ぎていたら、彼とつながりも変わっていたかもしれません。

 大人との出会いも同じです。
 人と人の出会いは一瞬の出来事なのです。
 人と人の出会いは神様が仕組んでいる神様からのプレゼントです。
   (子は宝です)