第28回「女子高校生の優しさにその場の空気が変わった」

熱血先生 今日も走る!!!
「子は宝です」 第28回

「女子高校生の優しさにその場の空気が変わった」
中 野  敏 治

ある休日の日、電車に乗って出かけようと駅に向かいました。お財布に入れてあった電子カードを使い改札を通るつもりでしたが、チャージ残金が少ないことを思い出し、チャージするために二台並んでいる券売機の一台に並びました。

隣の券売機では、90歳近い方でしょうか、おばあちゃんが券売機をじっと見ていました。お金は入れたのでしょう。金額のところが明るく電気がついていました。それでも、おばあちゃんは、券売機の操作に戸惑っていました。

券売機を待っている列はどんどん長くなります。おばあちゃんの後ろには、女子高校生が並んでいました。その女子高校生は、お財布を片手に持ち、多少イライラしているようにも見えました。

おばあちゃんは、後ろに列ができていることに気づき、少し焦りながら、独り言を言い始めたのです。近くにいる人には聞こえるくらいの声の大きさでした。「お金、入れたんだけどね」「動かないんだよ」。その声は、私にも、おばあちゃんの後ろに並んでいた女子高校生にも聞こえました。おばあちゃんは「もういいや」とつぶやくと、券売機の前から動こうとしました。

その時です。さっきまで少しイライラしているように見えた女子高校生がおばあちゃんに声をかけたのです。「どうしましたか?」と。

おばあちゃんは、申し訳なさそうに、「お金を入れたのに、入れた金額だけの表示が(券売機に)されないんだよ。いくらボタンを押しても切符が出てこないんだよ」というのです。女子高校生は、おばあちゃんから話を聞くと、券売機の前に行き、「おばあちゃん、いくら入れたの」と尋ねると、入れた金額より100円少ない表示が出ていたのです。行先のボタンをいくら押しても、100円少ないので切符は出てこないのです。
女子高校生は入れた金額をもう一度おばあちゃんに確認しました。そして、間違いなく入れた金額より100円少ない表示がされ、行先の切符を買うには100円不足していることが分かりました。女子高校生は駅員を呼ぼうとしたのですが、その時、100年玉が返金されていたことに気が付いたのです。投入のタイミングが悪かったのでしょうか。券売機に入れたお金の中で100円玉が一つ、戻ってきてしまっていたのです。

女子高校生はその100円玉を再度券売機に入れ、おばあちゃんに行先を聞き、ボタンを押し、切符を買ってあげたのです。

おばあちゃんは、その女子高校生に何度も何度も頭を下げていました。少しイライラしながら列に並んでいた人たちの顔から、イライラしている様子が消え、みんな笑顔になっていました。

さらに驚いたことに、その女子高校生は自分の切符を買うと小走りで駅の改札に向かい、そのおばあちゃんが駅の階段を上がるのを手伝っていたのです。

そのことに気がついた私は、感動し、涙が出そうなほど、心がどきどきするのが分かりました。

一人の女子高校生の優しさが、その場の空気を変えました。
その場にいたみんなの心の中に温かな風が吹いたようでした。