第27回「教師にとっての出会いと別れ」

熱血先生 今日も走る!!!
       「子は宝です」 第27回

「教師にとっての出会いと別れ」
~別れにはドラマがある~
中 野  敏 治

○この子たちがわたしを支えてくれたのです
 ある学校での出来事です。
 三月三十一日、転勤する教師にとっては、今まで勤務していた学校での最終勤務日です。
この先生も今まで仕事をしていた学校での勤務最終日を迎えていました。
 転勤がわかると、数日前から、転勤のための片付けをしていました。部活動の関係、教科の関係、生徒会の関係など、一人の教師はたくさんの仕事をしているのでその引き継ぎの作業だけでも大変です。教科の年間計画や部費の帳簿、次年度の資料作成など様々なものを用意します。さらに教材室の整頓、ロッカーの整頓などいろいろと片付けをします。
 会社内の転勤で建物がさほど遠くない場合や社内での移動では、次年度になってからも、前任者に聞けるのですが、学校は他の市や町の学校への転勤することもあるので、できるだけちゃんと引き継げるように、そして、整頓をできるだけしておくのです。

 その先生は、時間も忘れ、今までの職場の思いを一つひとつ思い出すように、片付けをしていたのです。すべての整理を終えるころには、すでに外は暗くなっていました。
 そして、夜も遅くなり、校舎を出ようと職員玄関に向かいました。一度駐車場へ行き、荷物をすべて車に積んだ後、職員玄関に戻ってきました。

 ○下駄箱を綺麗に拭く
 職員玄関に戻った先生は、上履きに履き替え、雑巾とバケツを取りに行き、その雑巾とバケツを持って、生徒昇降口で生徒の下駄箱を一つひとつ綺麗にふきだしたのです。
 すでに卒業した生徒の下駄箱も、すでに修了式を終えて春休みに入っている生徒の下駄箱も、丁寧に、丁寧に雑巾で拭いているのです。
 全校生徒の下駄箱を拭き終えると、今度は職員の下駄箱を綺麗に拭いたのです。すべての下駄箱を綺麗にすると職員玄関で頭を下げ、駐車場へ向かいました。

 「私はこの生徒たちのおかげで、たくさんのことを学びました。生徒は私にとっての宝物です。新年度が始まって、少しでも綺麗になった下駄箱に上履きを入れる生徒たち。みんな進級し、3月と違う場所の下駄箱に靴を入れるのでしょうね。みんな、みんなそうして成長をしていくのですね。だからその下駄箱を綺麗にしておきたかったのです。」
 後日、この先生が話された言葉です。人としてのあり方を教えていただいた気がします。
○教育実習生の言葉
 6月になると、学校には教育実習生がやってきます。大学生が数週間、学校に来て授業だけではなく、朝の会や給食や掃除などさまざまな実習をします。
 今年も数人の大学生が教育実習生として、学校にやってきました。教育実習開始のころは、大学での生活と大きく違い、緊張している姿がみられます。
 教育実習の初日に、「転勤する時に生徒の下駄箱を丁寧に掃除をした先生」の話を実習生にしました。
 実習生はこの話を忘れませんでした。三週間の教育実習が終える最後の日、実習生が職員室にいないと思ったら昇降口で、簀子(すのこ)をすべてあげて、掃き掃除をしていたのです。「どうした?」と声をかけると「私達もこの学校にお世話になったし、生徒達にもお世話になったから」とサラッと言うのです。

 言葉が心に届いたとき、よいことは広がっていくのです。教育実習生の姿に、転勤した先生の姿が重なりました。