第23回「心が一つに」

熱血先生 今日も走る!!!
       「子は宝です」
中野敏治
「心が一つに」
  クラスの心が一つになっていく
 私たちの地区では、運動会は5月に行うところが多くあります。
 4月に新しい学級が生まれ、新しい学級に新しい仲間が集まります。4月、5月は学級作りの大切な時期なのです。
 その学級づくりと同時に運動会の練習が始まります。
 当然、運動会の種目も、学級の協力を大切にするものが多くあります。
 ムカデ競争も学級の仲間の協力が必要です。最初はなかなか足が合わず、ゆっくり歩いても、足がひっかかり転んでしまっていたグループ。練習をかさねるとトラックを駆け足で進むようになります。
 大縄跳びも学級の仲間の協力が必要な種目です。大きな縄を回し、その縄をクラス全員で跳ぶのです。一回も跳べずにいたクラスが、毎日休み時間に練習をしていくと、何十回と跳べるようになっていきます。
クラスは成長する
 クラスの心が一つになっていく。4月に生まれた学級は、どんどん成長をしていきます。
 さまざまな運動会種目でクラスみんなが息を合わせ、協力をしていくのです。でも、必ず順調にいくとは限りません。心を合わせようとすればするほど、イライラしてしまい、トラブルも起きます。
 そんな状態の時、三年生のあるクラスで、男子生徒が練習中に捻挫をしてしまったのです。運動会本番まであと三日というときです。
 クラスメイトは駆け寄りました。彼は保健室に行き、足首を冷やしました。彼は翌日からの練習には参加できませんでした。
彼は、クラスのみんなとの練習に参加できなくなりました。それでも彼は、毎日グランドのわきに座り、大きな声でクラスメイトに声援を送っていたのです。
 運動会当日、一番最初に学校へ来たのは彼でした。彼はまだ足が治っていなく、すべての競技には参加できませんでした。それでも、誰よりも早く学校へ来て、クラスの優勝を願い、応援グッズを用意していたのです。
 午前中の競技が終えた時点で、彼のクラスは、2位でした。
昼休みに彼のクラスは、グランド脇で、クラスのメンバー全員が肩を組み、円陣を作って、お互いに気合を入れるように、大きな声を出し合いました。
「いくぞ!」「お!」「優勝するぞ!」「お!」と。この円陣の中心にいたのは片足で立っていた彼でした。
午後の部が終え、閉会式です。
記録係りの生徒が結果発表をします。
「第三位 ○組」「第二位 ○組」「第一位…」少しの沈黙の後。「○組」と放送されると、彼のクラスから大きな声援があがりました。
 彼のクラスが優勝したのです。そして表彰式。クラスの列の一番後ろから、クラスメイトにおんぶされて、出てきたのは彼でした。「先生、彼に賞状を渡して」とクラスメイトが言うのです。そっとクラスメイトの背中から手を出した彼に、しっかりと優勝の賞状を渡しました。
 一つ一つの行事をとおして、クラスは成長するのです。大人が想像する以上に大きく、大きく成長をしていくのです。
 「運動会を終えて、勝負の結果は出ました。そして、これで運動会が終わります。でも、運動会が終えても、残るものがあります。それは、すべての生徒がこの日まで真剣に頑張ったという事実です。この事実は消えることはありません。」と話したとき、彼の目から涙が流れているのが分かりました。
(子は宝です)
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