第22回「自分たちの問題なんだから」

熱血先生 今日も走る!!!
       「子は宝です」
中野敏治
「自分たちの問題なんだから」
 中学一年生を担任していた時のことです。「先生のクラスは、授業中におしゃべりが多くなってきていますよ」と、教科指導の先生が私に声をかけてくれました。
 中学校は教科担任制ですので、私の授業の時には、さほどおしゃべりはないのですが、他の教科では、おしゃべりが多くあったようです。
今のままでいいの?
 学級で授業の様子について、学級委員が司会をし、クラスみんなで、どうしたらいいのかを話し始めたのです。
 担任の私は、教室の後ろで、じっと生徒の話し合いの様子を見ていました。生徒が自分たちで解決できないと、教師がいないところでは同じ問題を繰り返すと思ったのです。
 話の様子から、やはり静かに授業を受けている教科とそうでない教科がありました。話し合いは進みませんでした。それでも私はじっと教室の後ろで生徒の様子を見ていました。
 なかなか話が進まない状況の中、ある女子生徒が教室の後ろを振り向き、私に声をかけてきました。
「先生、男子がうるさいんです」
「注意してもきかないんです」。
 その言葉に男子が反論です。
「うるさいのは、俺たちだけじゃないよ。女子もおしゃべりしてるじゃん」と。
男女で言い合う形になりました。
 それでも私は黙って見ていました。司会の生徒も困った様子でした。
「シズカニ」ってどんなカニ
 そんな状況の中、ある女子生徒が手を挙げたのです。
「ねぇねぇ、カニを作ろう!」と。クラスのみんなは「いきなり、何を言い出すんだ」という顔をしました。きっと私もそんな顔をしていたと思います。
 彼女は話を続けました。「食べるカニでなく、シズカニというカニを作るんだよ」と。「なにそれ?」とみんなが興味を示しました。
 「だって、授業中にうるさいとみんな『静かに』っていうでしょ。だから『シズカニ』プラカードを作るんだよ。カニの形をしたプラカードだよ。それを使えばいいよ。言葉で注意しなくても、このカードを見て、みんなが気づけばいいんだよね」と。みんなの顔が明るくなりました。なんか楽しそうだという顔です。
 「そのカニ、どうする?」
「教室の前に貼る?」
「一番前に座っている人が、持っていて、授業中、うるさいと感じたら、その『シズカニ』プラカードを持ち上げればいいよ」
など、話がどんどん盛り上がっていきました。クラスの問題を話し合っているのに、みんなが楽しそうなのです。翌朝には一匹の「シズカニ」ができていました。
 朝から、みんなワクワクです。朝の会で学級委員長が「○○さんがシズカニを作ってくれました。今日から私たちのクラスの仲間です」と。その言葉を聞いた一人の生徒が「でも、そのカニが活躍しないほうがいいんだよね。作ってくれた○○さんにはわるいけど」と。
 一校時の授業が始まりました。一番前に座っている生徒の机の横には「シズカニ」プラカードが置いてありました。その生徒は、「シズカニ」の事が気になって仕方ありませんでした。
 不思議です。それから授業は静かになりました。いつしか「シズカニ」は、教室の後ろの壁に貼られていました。
(子は宝です)