第18回「出会いは時間の深さになる」

熱血先生 今日も走る!!!
「子は宝です」
中野敏治
「出会いは時間の深さになる」

教員になり多くの生徒と出会ってきました。
生徒と教師の出会いは、本当に不思議なものです。「もし、その学校に勤務していなかったら……」「もし、教員に採用されるのが一年遅かったら…」。教師はさまざまな条件の中で、偶然に出会った生徒と一生のつながりができていきます。
教師も生徒も何の駆け引きもなく繋がっています。教師は、ただただ必死で生徒によりよく生きてほしいと願って生活を送っています。

転勤二週間目に

新採用で着任した学校がマンモス校であり、着任二年目で二つの学校に分離することになりました。私もその分離に伴い、転勤することになりました。三年生を卒業させたので、転勤の節目としてはちょうどよい時でした。
新たな学校で、新たに担当したクラスをどう作っていこうか、いろいろと考えていました。着任した4月初め、すぐに教室環境を整え始めました。転勤した学校も大きな学校で、いくつかの教室はプレハブでできていました。私が担当したクラスはそのプレハブの教室だったのです。それだけに、教室環境をしっかりと整えようと思ったのです。
空き瓶をスプレーペンキで塗って、花瓶を作りました。そして、教室の六か所にフックを付け、手作りの空き瓶花瓶を使い、花を飾りました。教室のうしろのロッカーも一人ひとりの生徒がカバンなどを入れやすいように、区切りをつけ、余った場所は班で使えるようにラベルを貼りました。
その様子をクラスの何人かのやんちゃな生徒が見ていたのです。そして、「先生、何やってんの?」と声をかけてきたのです。「こうしたほうが、教室がきれいだろう」「そうだけど、こんなことする先生、初めて見たよ」と言いながら、私の作業をじっと見ているのです。やんちゃな生徒は、授業が始まってもなかなか落ち着かない状態でした。放課後も気になる先輩たちと行動を共にしていました。
それから二週間ほどして、はじめての転勤で、新しい学校になれなかったのでしょうか。体調を崩してしまいました。一日、学校を休むことにしました。朝、学校へ電話をして、管理職に体調の悪いこと、そして今日一日仕事を休むことを伝えました。電話尾を切ったあと、やんちゃな生徒に、「体調が悪く休むから、一日おとなしくするんだぞ。他の先生に迷惑かけるなよ」と電話を入れました。「なんだよ、先生。わかってるって、心配するなよ」と。「心配だから電話したんだ」と返事を返すと「うるせーな、心配するなよ」と彼の返事。
少し安心し、一日学校から電話がないことを願いながら、体を休めました。それでも、熱が下がらず、学校を一週間ほど休むようになってしまいました。一週間自宅で休養をしたものの、それでも体調はよくならず、翌週には入院をするようになりました。
転勤し、新たな学校に着任して、学級担任となっていただけに、学級づくりの一番大切な時期でした。病院のベッドで横になっていても、クラスのことが心配で、生徒はどうしているか、授業はどうなっているか、係り活動はちゃんとできているか、あのやんちゃな生徒はちゃんと生活しているだろうかなど、考えるのはクラスの生徒のことばかりです。

生徒のお見舞い

クラスに気になる生徒が数人いただけに、その心配も増していました。約十日間入院をして、その後、学校へ復帰しました。
朝、教室へ入ると、生徒は、以前と変わらない様子で私を迎え入れてくれました。みんなニコニコしていました。その時、やんちゃな生徒が急に立ちあがりました。そして話し始めたのです。
「先生、どこに入院していたんだ。俺たち三人でお見舞いに行ったんだぞ!」と怒るように言うのです。その話を聞き、彼と一緒にお見舞いに来た生徒が笑いながら話し始めました。「先生、こいつが怒っているのは、ケーキがつぶれたからだよ。」と言うのです。最初は、何のことなのか、話が分かりませんでした。彼らの話をじっくり聞いてみると、彼らは日曜日に自転車で私の入院している病院までお見舞いに向かったそうです。途中でお小遣いを出し合って、お見舞いにとケーキを買ったのですが、病院が見つからず、いろいろと道を走りまわっているうちに、ケーキを持っていた生徒が自転車ごと転んでしまったというのです。その時、お見舞いにと買ったケーキがつぶれてしまったのです。
クラスのみんなは大笑いしました。でも、私はすごく嬉しかったです。自動車でも一時間近くかかる病院へ自転車でお見舞いに行こうとしてくれた彼らの気持ちが嬉しくて。しかも、転勤後、二週間しかたっていなかったのに。本当に嬉しかったです。

彼らとの接点は、たった二週間という短い時間でしたが、でも、こんなにも思いを寄せてくれた生徒に、「私もこの生徒たちのために、このクラスのために何かをしてあげたい」と強く思いました。
人(生徒)とのつながりは、時間は長さだけではないのです。短い時間でも深さができるものだと、彼らは教えてくれました。
(子は宝です)