第17回「掃除をすると何かが変わる」

熱血先生 今日も走る!!!
「子は宝です」
中野敏治
2013年11月
「掃除をすると何かが変わる」

トイレ掃除と出合ったのは、10年ほど前のことです。県内だけでなく他県へも宿泊でトイレ掃除に行きました。
トイレ掃除を掃除するだけで、心の中が爽やかになってくるのです。このことを、言葉で説明するのはなかなか難しいと感じていました。
当時、教育行政にいた私は、「学校へ戻った時、このトイレ掃除を学校で生徒たちとやりたい」と、強く思うようになりました。
そして、その時が来ました。学校への着任。数週間して、「トイレ掃除を校内で実施したい」と校長へ申し出ました。校長には、私の思いが伝わりました。職員への説明です。体験することでトイレ掃除の良さが感じられるもの、体験なしで、それをどう説明したらよいのか迷いましたが、職員会議でトイレ掃除のすばらしさを語りました。
職員は戸惑いました。そのとき一人の職員が発言したのです。「全国でトイレ掃除がこんなに広がっているんだから、きっといいことがあるんだよ。やってみよう」と。この発言で、その地区では初めての本格的なトイレ掃除を実施することができました。
トイレ掃除を体験した生徒は、「最初は嫌だったが、便器を磨くと夢中になり、あっという間に時間が過ぎた」「もっと時間が欲しかった」「便器を磨くことは初めてだけど、家でもやってみたい」「きれいになると空気も違った」など、体験する前とは違った思いになっていました。職員も「やってよかった。来年もやろう」「学校の行事にしてもいいんじゃないか。恒例にしたい」などの感想を寄せてくれました。
言葉や文字ではなく、体験することで、本物の意味が伝わるのだと学ぶことができました。
掃除は、トイレ掃除だけではありません。トイレ以外の場所を掃除することも同じです。トイレ掃除と同様に掃除をすることでたくさんのドラマが生まれます。人の心が変わっていきます。

掃除をしているときの人間は、自然体なのでしょう。なんの防御もないのでしょう。通学路を掃除していると、そこを通る方全員が挨拶をしてくれるのです。自転車で通り過ぎる人も、車で通過する人もみんな「おはようございます」と声をかけてくれるのです。周辺の方も家から出てきて、声をかけてくれるのです。登校する生徒も、本校の生徒でない高校生も、小学生もみんな声をかけてくれるのです。箒の力、掃除の力はとっても不思議だと感じています。

私が道路を掃いていると、反対側から、塵取りとほうきを持ったおばあちゃんが道路を掃いていました。その日からとても仲良くなりました。一度自宅へもお邪魔しました。そのおばあちゃんは、足が悪かったのです。それでも、箒と塵取りをもって、同じ道路を掃除してくれたのです。夏の暑い日も、冬の寒い日も、一緒に掃除をしました。足の具合が悪いことなど、自分からは一言も言わないおばあちゃんです。素敵なおばあちゃんです。

正門前に住んでいるおばあちゃんも一緒に掃除をしています。桜が散るころは、たくさんの花びらが道に落ちます。「桜の花を楽しませていただいたから」とニコニコしながら、落ちた花びらを掃いてくれます。秋になると、道路には落ち葉がいっぱいです。「落ち葉は季節のものですから」と言いながら、おばあちゃんは、掃除をしてくれます。手が痛くなるような寒さの中でも、「健康のためですから」と掃除をしているのです。職場の敷地内にある桜の木からの落ち葉でも、こうしてそっと掃除をしてくれるおばあちゃんです。もう九十歳を過ぎているおばあちゃんです。
批判することより、ともに動くことを教えてくれました。素敵なおばあちゃんです。

ある日、職場に折り紙で作ったくす玉が届けられました。このプレゼントを持ってきてくれたのは、朝の掃除の時に、「おはようございます」とあいさつをしているおばあちゃんでした。時には、立ち話をしたりしていました。そのおばあちゃんからのプレゼントでした。このおばあちゃんは、職場の近くのアパートに一人で暮らしています。そして、朝、正門の前を通っていたのは、病院に行くためだったのです。おばあちゃんといろいろな話をしてきました。おばあちゃんは、一人でコタツに入りながら、毎日、少しずつ折り紙を折っていたのでしょう。そして、素敵なくす玉のプレゼントを持ってきてくれたのです。

数週間前から毎日逢うのが楽しみな小学生に出逢いました。毎朝、おかあさんと手をつなぎ小学校へ登校している子です。特別支援学級の子です。箒を持っている私を見つけると、遠くから大きな声で「おはよ~」と何度も何度もいいながら私のところまで走ってくるのです。
箒を持って掃除をしているだけなのに、こんなにもみんなと仲良くなっていける。たった一本の箒、そして毎日少しの時間の掃除、それだけなのに、毎日続けることでたくさんの宝物を頂いています。
掃除をすると、間違いなく何かが変わってきています。