「波長がぴったり合う」友人の話(その2)

「波長がぴったり合う」友人の話(その2)
・・・同じことに感動し、同じ体験をする
志賀内泰弘

タクシーの運転手の対応にいつも注目
田村茂さんが本を執筆されました。
「外食マネージャーのための ぶれないプライドの創り方」(同友館)です。今まで、たくさんの心温まる「おもてなし」のエピソードを伺ってきたはずなのですが、「まだ教えてもらってない話がこんなにも!」と驚きました。そして、これまた「波長が合う」話ばかりなのです。
例えば、田村さんがある税理士事務所を訪ねた時の話。新宿駅西口を出ると、外は土砂降り。歩いて10分ほどだけどやむを得ずタクシーに乗ったそうです。運転手さんに、「西新宿7丁目の○○ビルまでお願いします。近くてすみません」と言うと、なんとこんな返事が・・・。
「(まったく愛想も無く)あー、そこまでだったら歩いたほうが早いんじゃない」
今度は、その帰りのこと。打合せを終えて再び外へ出ても雨の勢いは変わらず。またタクシーに手を上げました。新宿駅西口までです。田村さんが恐る恐る、
「JR新宿駅西口までお願いします。近くてすみません」
とお願いすると、こんな言葉が返ってきたというのです。
「いえいえお客さん、距離ではありません。ご利用いただけるだけで嬉しいのです。お仕事の帰りですよね。お疲れでしょう。短い時間でもゆっくりお過ごしください」
このエピソードを受けて、田村さんはこう言います。「行きと帰り運転手さんの違いは何だろう。そうか!行きの運転手さんは「単に人を運び、少しでもお金を稼ぐ人」と考えている。対して帰りの運転手さんは「ご利用いただくお客様のお役に立つ人」である。お店のスタッフは単なる「売り子」ではなく、お店を利用するお客様にとって「お役に立つ人」でなければならない。そう、田村さんは、日常すべて目の当たりにする出来事を、「盥の水の教え」を基準にしておられるのです。
実は、志賀内も同じ。タクシーや新幹線、飛行機は「いい話」のネタの宝庫。「気づき」「学び」はどこにでも潜んでいます。出掛ける先々で「お役に立つ人」精神を探しまくっていて、「おもてなしの達人」を発見するとメチャクチャ嬉しくなるのです。ここでも、田村さんと「共鳴」できて嬉しくなりました。
父の棺に入れた白いおにぎり
田村さんは、2019年3月28日、お父様を94歳で亡くされました。
その葬儀でのことです。
数か月前から、担当の医師からいつ何があってもおかしくない状態と言われていたので、覚悟を決め、事前に葬儀屋さんをあたり、その時に備えて準備しておくことにしていたそうです。近隣の葬儀屋さんをいくつか訪ね、最も対応の良かったH社さんに会員登録し、事前相談しておきました。
そして葬儀の日を迎えると、事前の打ち合わせにもとづき、担当者と葬儀一連の確認を行いました。その中で担当者から「お父様はどんなお人柄だったか」「何が好きだったか」など、いくつか質問を受けました。その中で、「好きなもの?」と聞かれて「炊き立ての白いご飯をたらふく食べることだった」と伝えました。
お通夜を終え、翌日の告別式。お坊さんの読経、参列者の焼香も滞りなく終わり、納棺の時間がやってきました。参列者が沢山の花を添えてあげた後、H社のマネージャーから「私たちからも一つ手向けさせていただいてよろしいですか」と声が掛かりました。
「どうぞお願いします」
その直後でした。祭壇の横のドアから女性スタッフがワゴンを押して出てきました。そのワゴンには炊飯器が載っています。女性スタッフがご飯を手際良くおにぎりにしたか思うと、それを父の棺の中にそっと入れてくれたというのです。
「旅の途中でお召しあがりください」(スタッフ一同合掌)。
悲しみを堪えていた田村さんは、堰を切ったように涙があふれてきたそうです。
葬儀であれ、普段の買い物であれ、「誰のためにどうお役に立つのか」を実践されることに、同じ「働く者」としてマネージャー経験者として感動したと言います。

なんと、志賀内も同じ体験をしていた!
この話を読み、志賀内は驚きました。そっくりの体験をしたことがあるからです。3年ほど前、妻を亡くした時のことです。抗がん剤治療など6年間、二人三脚で闘病しました。もう二人ともボロボロでした。妻はだんだんと食が細くなり、最後は「飲む」ことしかできなくなりました。
どんなものでもいい。好きな物を口にさせてやりたい。最期を迎えるために入ったホスピスの部屋の冷蔵庫に、私はファンタグレープを欠かさないように何本も入れておきました。亡くなる数日前には、ベッドから一人で起き上がることもできなくなります。「ファンタ飲みたい」というので、コップに移して一口飲ませます。すると、「プハ~あ~美味しい~しあわせ~」と微笑みました。
さて、納棺の前にこの「ファンタを飲ませた」話を皆さんにしました。全員が涙してくれました。担当者から棺を閉める前に「最期のお別れを」と言われたその時でした。私の目の前にスーッと・・・ファンタグレープのペットボトルが差し出されのです。
「どうぞ、奥様に差し上げてください」
と。後で聞いた話。なんと、私が挨拶をしている最中に、「ハッ」と思い立ち、近くのコンビニまでファンタグレープを買いに走ったというのです。これが末期の水になりました。
田村さんと、こんな体験まで同じだったとは驚きでした。
客家の法則。盥の水の教え。
「生き方」「人生の目指す方角」が同じだと、見える景色や体験までもが「同じ」になるのですね。
田村さんは生涯の友です。

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(田村茂さんの新刊ご紹介)
「外食マネージャーのためのぶれないプライドの創り方」同友館