「波長がぴったり合う」友人の話(その1)

「波長がぴったり合う」友人の話(その1)
・・・元・モスバーガーの専務取締役田村茂さんとの出逢い
志賀内泰弘

「共鳴」できる「友」と出逢いたい
子供の頃から、「ほんと難しいなぁ」と思っていることがあります。それは「友達」を作るということです。偶然、教室の座席が前後していたり、部活のロッカーが上下だったり。そんな「偶然」で友達になることもあります。でも、生涯を通しての「親友」となると話は変わります。振り返ってみると、「ものの価値観」「考えた方」などが共鳴すると、長く付き合いが続いていることがわかります。
モスバーガーを展開する(株)モスフードサービスの元・専務取締役で、現在はoffice igatta代表としてコンサルタントとして活躍する田村茂さんとの出逢いは、まさしく「波長が合う」ことから始まりました。
「いいお付き合いになると思うよ」
田村さんとのご縁は、遡ること15年前。
ザ・リッツ・カールトンホテル日本支社長(当時)の高野登さんに、「八丁堀で飲み会をするから来ない?」と誘われて上京した際のことです。挨拶も早々に、「実はね、志賀内さんにぜひ紹介したい人がいて今日は声を掛けたんだ」と言われ、引き合わせていただいたのが田村さんでした。モスバーガーがまだ10店舗ほどしかない頃から、同郷(岩手)出身の創業者櫻田慧さん下でモスバーガーを育て上げて来た方であり、あのライスバーガーの生みの親でもあると聞きました。
高野さんは、いきなり私と田村さんを握手させ、その上に自分の両手を置いて「いいお付き合いになると思うよ」と言われました。
その時の、田村さんの最初の言葉を今も忘れることができません。
「志賀内のさん本、読ませていただきました。『客家の法則』の話、いいですね」
と。「プチ紳士・プチ淑女を探せ!」運動の理念は「ギブアンドギブ」。与えて与えて、それでも与えて見返りを期待しない生き方のことです。『客家の法則』とは、その「ギブアンドギブ」をわかりやすく伝えるために私が書いたエピソードでした。それは、こんなお話です。

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「客家の法則とは?」
中国南部の福建省に客家(はっか)という少数民族がいます。元々は中国全土を支配していた漢民族の末裔らしいのです。しかし、大昔、北方民族が攻めて来た際に、難を逃れて今の地にやってきました。彼らは特殊な建築様式の家(客家土楼)に住んでいます。イタリアのコロッセオのように、円型の外周部分が三、四階建てになっていて、各階に何軒もの家族が住んでいます。ちょうど中庭の見下ろせる高層筒型アパートといったイメージです。
入口を閉じると、外敵も侵入できません。中には、長期に篭城できるために、ブタやニワトリなどの家畜を飼っています。遠い祖先たちが、多民族との戦いに追われて南下したという歴史が、こうした強固な閉鎖社会を作り出したのです。しかし、少数民族にもかかわらず、世界中の華僑の大富豪や鄧小平、リ・クワンユー、孫文など有能な指導者を輩出したことでも知られています。
ここの村(建物)の長老に、テレビ番組のレポーターがこんな質問をしました。
「なぜ、この小さな村は優れた人物を大勢輩出しているのですか」
すると、長老いわく、
「この村には、こんな教えがあるんじゃ。右隣の人に親切にしてもらったら、その人にお返しをしてはならない」
と言うのです。それは妙だな、親切をしてもらったらお礼をするのは当然じゃないかと首を傾げていると、長老はこう続けました。
「右隣の家に人に親切にされたら、反対の左隣の家に人に親切をしなさい」と。
ハッとしました。眼から鱗とはこのことです。円型ドームのアパートみたいな住まいなので、次々に親切をぐるぐると回して行けば、いつの日か回りまわって自分に還ってくるというわけです。そういう「生き方」を実践して、多くの偉人を輩出してきたのです。
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田村さんは、この話を受けてこうおっしゃいました。
「実はね、モスバーガーの理念も同じなんです。仏法の教えに「盥(たらい)の水」という話がありますよね。それで、志賀内さんと話がしたいと思っていたんです」
ご存じとは思いますが、念のため「盥の水」は、こんなお話です。

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仏法の説話「盥の水の教え」
丸い大きな盥(たらい)に水を張って、一枚の葉っぱを浮かべます。その葉っぱを「こっちへ来い!」と手前にかき寄せると、まるで自分から逃げていくかのように、反対の方向へと遠ざかってゆきます。
反対に、「あっちへ行け!」と追いやると、あら不思議。自分のほうへ近づいてきます。遠ざければ、やって来る。かき寄せれば逃げていく。
つまり、欲をかいて求めると「利」は逃げていく。人の為に尽くしたり与えると、己に「利」が訪れる。これが、自然の摂理、世の中の真理なのだというお話です。
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「波長」は「ギブアンドギブ」
その後、田村さんから、モスバーガーの店頭で生まれた心温まる「おもてなし」の感動エピソードをいくつも教えていただきました。突然、「今、博多に来てるんだけど、こんな出来事があってね!」などと電話がかかってきます。そのすべてが、私の心の琴線に触れかき鳴らすものばかりなのです。
そうなのです。「波長」が合うからです。田村さんがいつも熱く語るスタッフさんたちのどの接客の話にも、「お客様のために何ができるか?」「どうしたら喜んでもらえるか?」と常にトライ&エラーを繰り返して臨む「ギブアンドギブの精神」がありました。
それらは、「毎日が楽しくなる17の物語」(PHP研究所)をはじめとして拙著でたくさん紹介させていただました。
田村茂さんは、志賀内の「いい話の宝箱」です。

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(田村茂さんの新刊ご紹介)
「外食マネージャーのためのぶれないプライドの創り方」同友館