田村茂さんプロフィール

元モスフードサービス専務・CSの達人

1952/10 岩手県大船渡市生まれ
1972/3 日大(経)2年次モス創業者「櫻田慧」との運命的出会い
1974/6 モス1号店でアルバイト
1975/3 日本大学経済学部卒業
1975/4 都市銀行入行→10か月で退社
1976/2 (株)モスフードサービス入社
       店長、SV、営業部長等を歴任
1987/12 商品開発部長としてモスライスバーガーの開発を担当
       その後、取締役商品本部長、取締役専務執行役員COOを歴任
2011/6 専務取締役就任
2014/6 専務退任。その後特別顧問就任
2016/4 兼 元(株)日本マーケティング塾取締役兼特別講師
2017/3 (株)モスフードサービス退社
2018/2 office igatta 設立  代表
2019/9 兼(一社)流通問題研究協会特別研究員・北海道地域フード塾講師

現在は、食関連産業を含めた小売り・サービス業のマーケティングやチェーンビジネス、商品開発・サービスマインド・リーダーシップ・モチベーション向上などの講演・研修を行っている。

著書に「外食マネージャーのためのぶれないプライドの創り方」(同友館)がある。

志賀内泰弘

おだいじに

 元・(株)モスフードサービス専務取締役で、現在office igatta代表としてコンサルタントの田村茂さんから、出逢って間もない十数年前に、こんなお話を教えてもらいました。
 お客様から、モスバーガーの社長さん宛に届けられた一通の手紙、いわゆるサンキューレターでした。
 それは、こんな内容でした。

 午前10時半頃。国立がんセンターに入院中の15歳の次男に、「モスバーガーが食べたい」と言われ、少し遠いのですがウインズ銀座前にあるお店に買いに行きました。
 店には、女性の店員が一人でした。朝のメニューにはテリヤキバーガーがないので躊躇していると、彼女は欲しいものを聞き、「少しお時間をいただければお作りします」と言ってすぐに準備を始めました。
 そのとき初めて入院中の子供に持っていくことを話しました。このような店には、マニュアルとおざなりの対応しかないものと思っていたので、彼女の対応がとても驚きでした。
 注文の品を受け取り、店を出ようとする私に、彼女は、「おだいじに」と声をかけてくれました。年甲斐もなく、ジーンとしてしまいました。
 そして、さらに驚いたのは、病院に帰り袋を開けてみると、中にはメッセージカードが入っており、「早くよくなって下さいね」と書かれてありました。
 息子が発病してから一年余り、辛いことばかりの中で、知人・友人以外の方からのこんな優しい気持ちに触れたのは初めてです。
 生来、彼女の持っている性格も素晴らしいのでしょうが、それを日々の仕事の中で表に出せるような接客を貴社がされているとしたら大変素晴らしいことだと思います。
 場外馬券売り場の前という比較的荒々しい場所で、若い女性が優しい気持ちを失わず働いていることに本当に感動しました。お礼を言う機会がなかなかありませんので、会社宛にしました。
 ちなみに、メッセージカードには、工藤さんという名前が書かれてありました。

「おだいじに」から学ぶ「気づき」のキーワード

「『わたしには何ができるのだろう』と
 いつも考える習慣を持つ」

 感動しました。泣けてしまいました。
 なんて優しい心根の女性なんだろう。
 そう思うと、いてもたってもいられなくなり、工藤さんに会いたくなってしまいました。なんだか「ありがとう」と言いたくて。

 それから間もないある日のこと、モスバーガーの本社に知人を訪ねました。そして、工藤さんに引き合わせていただくことができました。
 とびきり笑顔のステキな女性でした。
 今は、スタッフの教育の仕事をしておられるとのことでした。
 工藤さんは、こう言っておられます。
 「特別な意識はぜんぜんなくて、決められたオペレーションの中でお客様に何かが伝わればいいなぁと。接客という言い方はあまり好きではありません。コーヒー一杯でも『生きていてよかったなぁ』と思われるような出逢い、ふれあい、コミュニケーションにモスバーガーの存在意義があるのではないか。そして、私が働いている意味もあるのではないかと思っています」
 ほとんどの業界のほとんどの仕事にはマニュアルというものがあります。それは、誰がやっても、同じ対応が可能なために作られたものです。だから、マニュアル通りにやっていれば、上司に叱られることはありません。
 でも、それだけでは何かが足りない。マニュアルとは、最低点をクリアするためのものだからです。
 彼女は、とっさに考えたのでした。
 「お客様のために、自分がいったい何ができるのだろう」
 心のもやもやを吹っ切るために、一歩踏み出して、メッセージを書いたのでしょう。それは、人としての、ごく自然に湧き出した「おもいやりの心」に他なりません。
 「私は何ができるのだろう」
 「あなたのために・・・」
 その問い掛けが工藤さんの「やさしさ」を伝えたのです。「やさしさ」は笑顔となって還ってきます。
 あなたも考えてみませんか。私は何ができるのだろう。あなたのために・・・。それは、仕事だけでなく、人生を豊かにしてくれることでしょう。

志賀内泰弘著「毎日が楽しくなる17の物語~ようこそ心の三ツ星レストランへ」
(PHP研究所)に掲載