お天気のトリビア④「お天気業界の隠語『見逃し』と『空振り』」

お天気のトリビア
気象予報士 寺尾直樹

④「お天気業界の隠語『見逃し』と『空振り』」

気象予報士にとって、一番に辛いのは「予報がハズレたとき」だ。
視聴者からお叱りがテレビ局に届く。仕事仲間であるはずの番組のキャスターですら「ハズレましたね」などと、ニヤニヤしてツッコミを入れてくる。
気象予報の業界では「降水なし」と予報したのにもかかわらず、降ってしまった場合は「見逃した」と呼ぶ。反対に「降水あり」と予報したのに降らなかった場合は「空振った」という。この「見逃し」「空振り」はおそらく野球用語から転用されたものと思われる。
ここで、気象予報士に心理的な思惑が働く。もしも「見逃し」て雨や雪が降ってしまったことで、人々の生活に影響が出てしまうとクレームに繋がりかねない。そこで「安全に行こう」と考える。「見逃し」でお叱りを受けるのなら「空振り」でお叱りを受けた方がいいと無意識に(?)思ってしまうのである。本当は気象予報は100%科学的根拠により行うべきなのだろうが、そこに「人間の心」がほんの僅かながら介在してくる。ピッチャーはスタンドやカメラの向こう側の観衆を意識し、プレッシャーを浴びながら投げることになる。どことなく気象予報士に似ているような気がする。
「ココロがパーッと晴れる「いい話」
気象予報士のテラさんと、ぶち猫のテル」(ごま書房新社)より