「根を養い、根を広く深く張り巡らせる」

渡辺経営コンサルタント事務所 季刊誌「かけはし」vol.114号(令和5年1月号)

「石の上にも三年」とか「一芸八年、商売十年」といわれるように、一人前になるためには、徹底して基本や基礎を身につけなければならない時期があります。人も企業も成長していくためには、辛抱の時期、忍耐の時期、下積みの時期を経験しなければ、次の段階に進んでいくことができないということでしょう。

「花の咲かない冬は根を養え」という教えがあるように、これらの時期は、しっかりと根を養い、根を深く張り巡らせることが何よりも大切であると私も思っております。「良樹細根」「高樹深根」という言葉も、そのことを私たちに教えてくれています。現在のように厳しい時代、激動の時代、冬の時代であっても、その間の過ごし方、取り組み方次第で、美しい花が咲く春の時代を迎えることができると思います。

数学界で最も権威あるフィールズ賞を授与され、昭和50年に44歳の若さで文化勲章を受賞された広中(ひろなか)平祐(へいすけ)先生は、類まれな努力家として有名ですが、広中先生は、「『努力』とは、私においては、人以上に時間をかけることと同義なのである」と定義づけておられます。広中先生がフィールズ賞を受賞されるきっかけとなった「特異点(とくいてん)解消(かいしょう)」の理論は、すさまじい努力、つまり長い長い時間をかけて到達した理論だといわれています。このことは、広中先生が「天才」ではなく「努力家」であったことの証でもありました。

努力の結果はどうであれ、努力のプロセスにおいて、人以上に時間をかけることは、私のような凡人にもできることです。凡人といえども、微力であっても無力ではありませんので、人以上に時間をかけてでも根を養い、努力を積み重ねていけば、小さな花であっても、美しい花を咲かせる春の時代を迎えることができるのではないでしょうか。

辛抱強く努力し続けることも能力だと思います。「根を養い、根を広く深く張り巡らせる」努力を「地味に、コツコツ、泥くさく」積み重ねてまいりましょう。

大きな努力で小さな成果を積み重ねていく「積小為大」に、激動の時代を生き抜き、道を切り拓くヒントがあるように思います。