漢字としては間違いだけど

(支部報告)
愛知県瀬戸市立(小中一貫校)にじの丘小学校長・渡邊康雄さんからの報告
「漢字としては間違いだけど・・・」

「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ。」
という声とともに注文したコーヒーが届きました。
とあるコーヒーショップでの出来事です。

運ばれてきたコーヒーの下には「チョコなどとの相性が抜郡です。」というメッセージが添えられていました。
もうお分かりでしょうか。「抜群」という漢字が間違っています。

このことで気分を害した訳ではありません。
失礼な対応だと憤慨した訳でもありません。

ただ、教員という仕事柄、正しい漢字を伝えるべきかという思いが湧いてしまいました。

よくある間違いです。意味は十分伝わります。伝えてあげないとこれからも同じ字を書かれるんだろうな。でも、伝えたことで店員さんに恥をかかせることになったらなど考えましたが、いいアイデアが浮かばず、「ごちそうさまでした。」という声を掛けお店を出ました。

モヤモヤしていたので職場で話題にしてみました。するといろんなアイデアが出てきました。
・『コーヒーとチョコの相性は本当に抜群でした!』と、さりげなくメッセージの下に返事を書く。
・「こんなイラストを渡したらいかがでしょう…」(右)
・「この漢字、私もよく間違えるんです。紛らわしいですよね。ところで、このコーヒー酸味があってとても美味しかったです。チョコと一緒に飲んだら最高の贅沢ですよね。もし、オススメのチョコがあったら教えてください…。」など、漢字の間違いは少しだけ、あとは他の話をするなど比重を変えて伝える。
・伝えるかどうかすごく迷ったこと、おもてなしの気持ちは十分伝わったこと、間違っていることを知っているのに言わないのは逆に失礼だと思ったことなど、すべてを正直に話す。
すべてのアイデアが店員さんを尊重し、温かい愛情に包まれていますし、こんなことを投げかけたときに反応してくれる教職員の優しさを感じました。

またイラストのアイデアを教えてくれた先生からはその後、こんなエピソードが届きました。
うちのクラスのTさんがあるアンケートに、「悩んでいる人の想談にのってあげたい。」と書いていました。僕はTさんの優しさを褒めながら、つい国語教師の血が騒いでしまい、想談じゃなくて『相』談だよって指摘し、『想』の字の下の心に×を打ちました。
彼女は、「あっ!」って漢字の間違いに気づきましたが、その場でよく考えたらTさんの相談って、『想談』だよなって思ったんです。まさに、Tさんの「思いやる心」がくっついた想談です。なんかほっこりした気持ちになり、「いや、漢字としては間違いだけど、この場合は想談で合っていると思う。素敵なことに気付けたよ。先生の勉強になりました。」と伝え、彼女は照れくさそうに教室に戻っていきました。
子どもたちに想談できる教師でありたいなと思った瞬間でした。

学問としての正解、不正解は存在します。では、人と人との関係においての正解、不正解は存在するのでしょうか。「がんばれ!」という言葉が勇気を与える場合もあれば、「がんばれ!」という言葉がプレッシャーになってしまう場合もあります。状況によって千差万別。非常に難しい問題です。

一人では思いつかないこともたくさんの人が知恵を出し合えば、より良い方法が生まれるかもしれません。また、みんなで楽しみながらアイデアを出し合うことが結果的に相手を思いやる優しさを身に付けることに繋がるのかなって思う出来事でした。

【後日談】
「実は、この出来事を記事にしたいのですが…」とお店を訪れたところ、店長さんは本当に丁寧な対応をしてくださいました。あのお店に行くとなんとも言えない安心感と癒やされる感覚になるのは、美味しいコーヒーだけでなく、お店の方の温かい人柄に包まれていることを再認識することができました。

(編集長・志賀内)
そうなんです!人と人の間には答えは「ひとつ」じゃないんですよね。だから悩むし、だから辛い。でも、それだからこそ心が通じた時の喜びが大きい。
「想談」かあ~いいなあ。ぜひ国語辞典に乗せたいです。