お礼はいりません (2009/2/1)

 名古屋市北区の会社員、星野良則さん(58)は、ある日財布を落としてしまった。現金は少額だったが、免許証や保険証、銀行のカードなどが入っていた。自転車での通勤途中に落としたものと思われ、気が付いたのは二日後のこと。「もし悪用されたら…」と不安に襲われた。

 通勤の道のりを捜したが見つからない。途方に暮れて最寄りの北警察署に電話をすると、「春日井市内の交番に届けられています。今は春日井署で保管中です」との答えが返ってきた。

 早速、受け取りに行くと、拾ってくれた方は「謝礼はいりません」とおっしゃったという。せめてお礼を言いたくて名前と住所を聞いたが、個人情報保護の立場から教えられないとのこと。残念ではあったが、心から感謝した。

 それから二カ月。今度は、星野さんが路上で財布を拾った。すぐに交番に届けた。中には現金のほか免許証が入っていた。ついこの前、自分が言われたのと同じように「お礼はいりません」と伝えた。その日のうちにお巡りさんから連絡があった。落とし主が見つかり、無事手渡したとのこと。ほっとしてお巡りさんに言った。「実は先日、私も財布を拾ってもらったのです。その恩返しができてうれしいです」と。

 星野さんは「気付かぬうちに、誰かに支えられたり支えたりしている。人に喜んでもらえることが自分の喜びでもある。世の中は人と人が助け合って生きているのだとあらためて思いました」とおっしゃる。「これからも小さなことで世の中に恩返ししていきたい」とも。