物を大切にする心 (2009/2/8)
名古屋市北区の永田留八さん(84)からの便り。昭和四十年のある日のこと、洗濯機が故障したので電化製品の修理屋さんに見てもらうことにした。すると、部品を一つ取り換えれば直ることがわかった。その部品をメーカーから取り寄せて、家まで届けてくれた。
永田さんが機械関係の仕事をしていることを知っていて「ご自分でも簡単にできますよ」と言う。教えられたように部品を取り換えると、再び動くようになった。請求されたのは部品代だけ。手間賃を支払おうとしたが、頑として受け取らなかった。
時は過ぎ平成五年。永田さんの家のテレビが映らなくなってしまった。購入してまだ三年ほどだ。そこで、あの修理屋さんを訪ねた。当時、二十代半ばだった青年は、立派な電器店を構えていた。しばらくして、修理したテレビを届けてくれた。「故障の原因がなかなかわからず、丸一日いじっているうちに映るようになりました」と言い、またまた代金を受け取らない。
永田さんは自分の若いころのことを思い出した。十四歳で就職し、夜は定時制高校に通った。粗末なおかずとごはんを詰めた一つの弁当を、昼に半分、夜に半分に分けて食べた。おなかがすいて仕方なかったが我慢して勉強した。道端の草さえも食べた時代だった。
「今は何でも手に入りますが、壊れるとすぐに捨ててしまう。でも少し前までは、物が壊れても修理して大切に使ってきました。その気持ちを、この電器店のご主人に思い出させてもらいました。だから単なる親切ではなく、人としての生き方を教えてもらった気がするのです」と永田さん。今でもこの電器店は、ご夫婦で小さいながらも営まれているという。