天井に上がった風船を (2009/4/5)

 半田市の新美ゆかりさん(45)が、スーパーマーケットに買い物に出掛けた時の話。その日は会員向けのセールで、店内はたいへん混雑していた。十台余りあるレジは、どの列も十五人以上もの人が並び、みんなイライラしていた。

 新美さんの番まで、四、五人になった時のことだ。少し離れたところで、子どものぐずる声が聞こえた。ふと振り向くと、赤ちゃんを抱いた若いお母さんが、天井に上がってしまった風船に手を伸ばして取ろうとしていた。おそらく、カートに座らせているもう一人の幼児が手を離してしまったのだろう。

 「せっかくここまで並んだけど、助けに行かなくちゃ」と思った直後のことだ。一人の五十代の女性が駆け寄った。商品棚の上に置いてあった広告用の旗のポールを手にして、風船のひもに引っ掛けようとする。いったん下がっては来るのだが、すぐにまた天井へ戻ってしまう。そんな繰り返しが続いた。

 その様子をみんなが見守り始めた。近くのレジに並んでいた三、四人が応援に加わった。悪戦苦闘の末、ポールで引っ掛ける人と、飛び付く人たちとのタイミングが合い、ようやく風船をつかまえることができた。

 風船を手にした子どもが笑顔になった。見回すと、その様子を見ていた何十人ものレジ待ちの人たちの表情が、パッと明るくなった。無言で応援していたのだ。新美さんはおっしゃる。「暗いニュースばかり報道されますが、世の中捨てたものじゃないですね。助け合う気持ちを大切にしていきたいと思いました」