恩送り (2009/6/14)

 「恩送り」という言葉がある。人から受けた恩を、ほかの人に順に送っていくという意味。

 愛西市の棚橋きみ子さん(71)は、友人たちと韓国旅行に出掛けた。土産を買い込み、荷物が大きくなってしまった。帰国して電車に乗った時には疲れ果てていた。最寄りの駅でのこと。エレベーターがなかったので、まず軽い荷物だけをホームから階段で降ろした。置きっぱなしにしてある荷物を取りにホームに戻ろうと振り返ると、後ろから見知らぬ青年が大きな重いかばんを運んで付いて来てくれていた。

 思わず手を合わせてお礼を言った。それだけではない。友人の方を見ると、やはり通り掛かりの若い女性が、大きな荷物を手にホームと改札を二往復。疲れもたちまちうせてしまったという。

 次は名古屋市南区の内山美恵子さん(62)がスーパーマーケットで買い物をしたときの話。財布の中のお金が足りないことに気付いた。九円。自分の不注意だったが「不足分は明日持って来ます」とお願いしてみる。やはり無理との返事。

 一品返して精算し直してもらうことにした。ところが、そのやりとりを聞いていたすぐ後ろの年配の女性が「これで買っていって。返さなくてもいいわ」と十円を差し出してくれた。

 店員さんは「よかったですね」と品物を再びかごに戻した。遠慮したが、笑顔で「大金じゃないから」と答えが返ってきた。

 実は、棚橋さんと内山さんのお二人。便りの末尾が同じ言葉で結ばれていた。「いつか私も、困っている人がいたら同じように手助けしたい」。まさしく「恩送り」だ。