さわやかな父子 (2009/9/20)

 吉良町の神谷美知子さん(61)が、ご主人と名古屋まで出掛けた時の話。名鉄の新安城駅で本線の特急に乗り換える。途中の駅で空席ができたので二人とも座ることができた。しばらくすると、小学一年生と幼稚園くらいの男の子二人が、父親と一緒に別の車両から移動して来た。

 それを見て神谷さんのご主人がパッと席を立ち、二人の子どもに席を譲った。「大人一人分のスペースでは狭いかなあ」と思い、神谷さん自身も立とうとした次の瞬間。すぐ隣に座っていた大学生らしき青年がサッと席を譲った。

 子どもの父親は「ありがとうございます」とお礼を言い、二人を腰掛けさせた。すぐに子どもが後ろ向きになり、窓の外の景色を見ようとした。父親はすかさず「靴がほかのお客さんの迷惑になるからだめだよ」と言い聞かせると、子どもたちも素直に従ったという。電車に乗るのがよほど楽しいのだろう。通り過ぎる駅の名前やビル看板を指さしては「何て読むの」と聞き、それに父親が答える。車内はほのぼのとした雰囲気に包まれた。

 金山駅で一緒に降りた。父親は神谷さん夫婦と青年を前にして、子どもたちに言った。「おじさんとお兄さんに、ありがとうと言いなさい」と。青年はちょっと照れくさそうに笑った。きちんとしたしつけに感激した。

 当たり前のことが当たり前でない世の中になっている。電車の中での化粧や携帯電話での会話、床に座り込んでの飲食。そんな時代だからこそ、さわやかでほっとさせられる出会いだったという。それが当たり前のことであっても。