「恩送り」で世の中が変わる (2009/9/6)

 六月十四日付「ほろほろ通信」で「恩送り」の話を紹介した。「恩送り」とは、人から受けた恩をほかの人へ順に送っていく行為のことだ。それを受けて「私も」と便りが届いた。

 豊橋市の吉元理奈さん(35)が三年ほど前に、伊勢に出掛けた時のこと。帰り道に津市一志町の町営温泉に立ち寄った。ゆっくりと湯に漬かり、外へ出ると辺りは真っ暗。帰る方角が分からなくなってしまい、ガソリンスタンドで道を尋ねることにした。

 四十歳くらいの男の店員さんが出て来て、とても丁寧に説明してくれた。手書きの地図まで書いて。その地図に従い、再び車を走らせた。しばらくして信号で止まっていると、車の窓をコンコンとたたく人がいる。先ほどの店員さんだった。「さっきのお姉さんだよね。家に帰る途中だから、国道まで案内してあげるよ。後ろを付いて来て」

 おかげで迷うことなく家までたどり着けた。でも、今思い返すと妙な気がする。仕事中だったはずの人が、帰宅途中だなんて。「きっと心配になって、わざわざ追いかけて来てくれたのに違いない」。こんな親切な人がいるのかと忘れられない思い出になっているという。

 吉元さんは、その時の親切を誰かに「恩送り」していきたいと思った。ある時、近くの公園で見かけないお年寄りに声を掛けた。案の定、道に迷っていたことが分かり駅までの道を教えてさしあげた。「こんなふうに小さなことしかできないけれど、みんながちょっとだけ親切をすれば世の中が変わるのでは」とおっしゃった。