アジサイの謎 (2009/10/18)

 今年の六月五日、豊田市の石田八千代さん(67)は突然ご主人を亡くした。悲しみに暮れる中、通夜がとり行われ近所の皆さんがお別れに来てくださった。翌朝、息子さんが門の所に青色のアジサイの花が一輪ポツンとあるのを見つけた。今、切り取ったばかりのように見えたという。不思議に思いつつ息子さんは、家の花壇に挿した。

 翌朝のことだ。石田さんが朝刊を取りに表に出ると、今度はアジサイ一輪とタマネギが置いてあった。いったい誰が…。そして葬儀のあった八日の朝。やはりアジサイが一輪と百円玉が。そこにはメモ書きが添えられていた。「これをなにかにやくだててください」。すべて平仮名。その筆跡から考えて、老人会の方だろうかと家族で話していると、四日目にはジャガイモが置かれていた。まるで新美南吉の童話のよう。

 五日目の朝のこと。石田さんが何げなく窓の外をのぞくと、子どもが門の前に何かを置いていくのが見えた。すぐ近所に住む小学六年の男の子だ。慌てて外へ出てみると、アジサイとニンニクと一枚のメモ用紙があった。そこには「まいにちつまらないものをおだし、もうしわけありませんでした。きょうでさいごなのでごあんしんください」と書かれてあった。

 石田さんはうれしくて、その子の母親にお礼に行った。母親はまったく知らないという。驚いて本人に聞いたが「知らない」と首を振るばかり。しかし、同じ青色のアジサイもジャガイモもニンニクも、男の子の家の庭で作っているものばかり。メモの筆跡が同じ。そして何よりも、このところ毎日「お母さん、朝六時に起こしてね」と頼まれていたので不思議に思っていたのだという。

 でも、なぜご主人のためにお供えを持って来てくれたのかが分からない。その子のお父さんが就職する際に、ご主人が保証人になったことがあるが、そんなことは知る由もないはずだ。今時珍しく近所の年少の子らを引き連れて、昔ながらのザリガニ捕りやチャンバラごっこをして遊ぶやんちゃな子だという。一緒に遊んでもらったことがあるのかもしれない。きっとご主人との間に、何か大切な思い出があったのではと思いをはせる。

 男の子がくれた百円玉とメモは、今も大切に仏前に供えてあるそうだ。