定時制の級友T君の話 (2010/5/2)

 名古屋市北区の中島しげ子さん(57)は、中学を卒業すると青果市場に事務員として就職した。午後四時半で仕事を終わらせてもらい、定時制の中央高校へ通った。同じように働きながら勉強をしている仲間たちと四年間を過ごした。

 三年生のとき、T君という男の子と同じクラスになった。無精ひげを生やしており貫禄(かんろく)があったが、中島さんより一つだけ年上と聞き驚いた。酒屋さんに勤めていて、前掛けをして手には注文取りの布袋を持って学校へ来ていた。ちょっとエッチで、女の子とすれ違うときにお尻を触ったりする。当時はおおらかというか反対に女の子たちが追い掛け回してかばんでたたいたりしていた。

 給食にパンと牛乳が出た。T君はいつも「おれ金欠だからもらっていこう」と、休んだ人のパンを持って帰った。みんなも「もったいないから持ってけ」と言い、残したパンを差し出す友だちもいて十枚くらいになった。なんだか憎めないちょっと変なやつだった。

 後に同窓会でT君の話題になった。彼と親しい人がいて、自衛官になったと教えてくれた。T君の妹さんが交通事故に遭った際、自衛隊の人たちが何人も輸血に協力してくれたおかげで命を取り留めた。それがきっかけで入隊したのだという。さらにこんな驚く話も。当時、持ち帰ったパンでサンドイッチを作り、ホームレスの人たちに届けていたというのだ。それを耳にして、中島さんの心の中で「変なやつ」が「いいやつ」に変わった。そういえば…。彼がいつも一番前の席で熱心に勉強していたことを思い出した。