ちょっと早めのサンタさん (2010/5/16)

 昨年の十二月二十三日夕刻のこと。名古屋市中川区の鬼童よしかさん(70)は、友人たちとの食事会へ向かうため車を走らせていた。ところが、橋の真ん中辺りで車のエンジンが止まってしまった。何度かけ直しても動かない。二車線のうち一つをふさいでしまったため渋滞に。右側を追い抜いて行く車に「ごめんなさい」と頭を下げた。

 そこへバイクの青年がやって来た。「どうかしましたか」。すがる思いで事情を説明した。エンジンをかけてもらうが、やはり動かない。ハザードランプを点灯し、腕をぐるぐる回して渋滞の車の列を右車線に促してくれた。

 「この辺のガソリンスタンドをご存じですか」と聞かれ「八百メートルくらい先にあります」と答えた。すると「スタンドにバイクを置いて戻って来ます」と言い、走って行った。しばらくして歩いて戻って来た青年が言う。「僕が車を押しますから運転席でハンドルを握っていてください」。そのまま四カ所の信号を越え、ようやくガソリンスタンドにたどり着いた。

 青年から事情を聞いていた店員さんが飛んで来てくれた。寒くて吐息が白いにもかかわらず、青年の額には玉の汗が流れていたという。幸い車は部品交換をして動くようになった。聞けば、彼も友達と会う約束をしており、一時間も遅れさせてしまったことがわかった。自分のことよりも困っている人のことが先という心に感激した。その後、鬼童さんは友人たちとの会に遅れて到着。事情を話すと仲間の一人が言った。「サンタさんが早めに来たのね」