サンタさんはいるよ (2010/12/5)

 今から6年前の12月22日。稲沢市の会社員寺西澄史さん(40)の次男が、奥さんの実家である千葉県の病院で無事に生まれた。仕事に追われていたため、喜びに浸りつつ名古屋へ戻った。

 その翌朝のことだ。奥さんからの電話が鳴った。赤ちゃんが別の病院へ搬送されたという。詳しいことはわからない。「大丈夫だとは思うけれど、こちらに来られる?」と言う。「無理はしないでね」とは言うものの心配になり、会社に事情を話して新幹線に飛び乗った。病院へ到着すると深夜になっていた。

 赤ちゃんは新生児集中治療室に入れられているという。ぼうぜんとする寺西さんに主治医の先生が言った。「お父さんですか。赤ちゃんはとても悪い状態です。後で詳しく説明しますのでここで待っていてください」と。そのまま治療室に入ったまま先生は出てこない。「もし…」と悪いことばかりが頭をよぎる。

 いつの間にか日付が変わっていた。先生の話では、ベストは尽くすが、もしだめなら米国で治療を受けるしかないとのこと。たくさんのチューブでつながれているわが子を見て、寺西さんは泣き崩れた。「大丈夫だ、先生が必ず助けてくれるよ、お父さんもお母さんもいるからな!」と一生懸命に声をかけた。

 呼んでもらったタクシーに乗り込むと、運転手さんに聞かれた。「ご家族が入院されているんですか?」。そのとたん、緊張の糸が切れ、再び泣きだしてしまった。「今から会いに行く妻に何と話したらいいのか。うちの息子もうだめかもしれない」。すると、運転手さんはこんな話を始めた。「大変ですね。私の妻も大病でこの病院にお世話になりました。ここの先生方は優秀です。妻も元気になりました。お子さんも大丈夫ですよ。今日はクリスマスイブ。きっとサンタクロースがプレゼントを持ってきてくれますよ」。寺西さんはその話を聞き、少し心が落ち着いたという。

 なんと奇跡が起きた。翌日から赤ちゃんは日に日に回復し、体のチューブも一本ずつ取れていった。その息子さんは今、保育園の年長組。運動会で活躍する暴れん坊だそうだ。寺西さんは言う。「あの日の運転手さんはサンタクロースだったと信じています」。二人のお子さんにも「サンタさんはいるよ」と話しているという。