お地蔵様の涙 (2011/3/6)

 知立市の池田静子さん(83)は農業を営んでいる。20年ほど前、区画整理で先祖代々の土地から離れたところで新たに田を耕すことになった。その片隅には、小さなお地蔵様が立っていた。明治時代からのものらしい。池田さんは幼いころからおばあさんに教えられていた。「お地蔵様を見かけたら、手を合わせて拝みなさい。きっと守ってくださるよ」と。それを思い出し、花と水を供えてお参りしていた。

 ある日、農道で車の衝突事故があり、お地蔵様が田んぼの真ん中まで引きずられてしまった。幸い車の人の命に別条はなかったが、お地蔵様の鼻が欠けてしまった。かわいそうになり、岡崎の石屋さんにお願いして修復してもらうことにした。事情を話すと、石屋さんは修復費を半額にしてくださった。そして出来上がったお地蔵様を見てびっくり。品のある美しい姿になられていた。まるで菩薩(ぼさつ)のように。

 いつしか、みんながお菓子やミカンなどをお供えし、おさい銭を置くようになった。だんだんその金額も増えてきた。そこで毎月、知立と安城の福祉協議会へ「お地蔵様」の名前で寄付しているという。

 ある雨上がりの日のことだ。他の部分は乾いているのに、お地蔵様の目の下辺りだけがぬれていることに気づいた。「あっ、泣いていらっしゃる」。池田さんはお地蔵様が喜んでいらっしゃるのだと思った。その時、もう一つおばあさんの言葉を思い出したという。「鳥や動物など物が言えないものにも魂があるんだよ」。池田さんは今日も元気に働けるのはお地蔵様のおかげだとおっしゃった。