親御さんに報告したい (2011/8/14)

 瀬戸市の池戸智美さん(44)が、藤が丘駅から地下鉄に乗ったときの話。座席の斜め前で、二人の女子高生が大声でおしゃべりをしていた。髪を染め、長い付けまつげに派手な化粧。周りの人たちも顔をしかめている。チラッと顔を見て「親の顔が見てみたいものだ」と思った。

 うとうとしていると、突然車内に「キャー!」と叫び声が響き渡った。真向かいに座っていた女子中学生が吐いてしまったのだ。真っ青な顔をしている。床に汚物が広がった。彼女の両脇に座っていた人や立っている人たちは身を引いて逃げるようにしてよけた。

 次の瞬間だった。騒がしかった二人の女子高生が、かばんからハンドタオルとティッシュペーパーを取り出し、床を拭き始めたのだ。それも笑いながら楽しそうに。サッサッと手際よく片付けていく。「このくらいまで拭けばいいかなあ」「いいていいて(名古屋弁)」。驚いたのはここから。きれいになった後で一人が「ちょっとにおうね」と言い、かばんから制汗スプレーを取り出してシューとひと噴き。「これでいいじゃん」。車内に良い香りが漂った。

 二人は何もなかったかのように、再びおしゃべりを始めた。ふと見ると、周りに迷惑をかけてしまった中学生が申し訳なさそうな顔をしている。池戸さんは彼女たちのドライで淡々とした行動が、中学生に心の負担をかけさせないための気遣いであるような気がした。

 「心の中で拍手しました。人を見た目で判断してはいけないとあらためて反省。二人の親御さんに報告してあげたいと思いました」と池戸さん。