61歳の留学生 (2011/9/11)

 幸田町の杉浦康司さん(62)は、60歳で会社を定年退職した。「さあ、これからやりたかったことを思う存分やるぞ」と思っていた直後のこと。庭の柿の木の剪定(せんてい)をしていて、脚立から落ち大けがをした。幸い命に別条はなかったが、頸椎(けいつい)を損傷し一時は歩行も困難になった。リハビリの日々を送っていたとき、知人が亡くなったという知らせが。電球を替えようとして椅子から落ち、机の角で頭を強く打ち、そのまま帰らぬ人となってしまったのだ。

 その二つの出来事があり今まで以上に「生きているうちにやりたいことを」と思うようになった。そこで単身、オーストラリアへ若いころからの夢だった語学留学に出掛けることにした。まだ体に不自由さが残る中での決断だった。

 ところが、現地の語学学校では英語の授業に付いて行けず意気消沈。周りはみんな20代。落ち込んでいるところへ、担任の先生が「家に遊びに来ませんか。両親にあなたの話をしたらぜひとも会いたいと言っているの」と誘われた。娘の教え子に61歳(当時)の日本人留学生がいることに興味を抱かれたらしい。日曜日の午後、お茶をごちそうになった。分かりやすい英語で話してくれて、楽しいひとときを過ごせた。

 最終日の授業が終わり学校の事務の女性にあいさつに行くと、こんなことを言われた。「あなたは今までで最年長の学生でした。無遅刻・無欠席で立派に修了されました。あなたのような意欲的な人に会えて幸運です。本当にありがとう」。いわゆる「落ちこぼれ」と思っていたのに「来てよかった」と感激したという。