私の夫は、61歳の留学生 (2011/9/18)

 前回、幸田町の杉浦康司さん(62)が、オーストラリアへ語学留学をしたという話を紹介した。定年退職後「さあ、これから…」と思っていた直後、大けがをした。頸椎(けいつい)を損傷しリハビリの生活。「生きているうちにやりたいことを」と強く思うようになり、留学を決意した。

 今日は、その奥さんの康代さん(58)の話。ご主人が庭で剪定(せんてい)作業中、脚立から落ちた。後で見たらぞっとした。辺りはれんがや石が散乱。打ち所が悪かったら死んでいたかもしれない。実はその日は康代さんの誕生日だった。病室で「痛い痛い!」と叫んでいる夫を見て「命が助かった」ことが何よりのプレゼントだと思ったという。

 歩行困難で握力もゼロ。それでも夫の夢はかなえてあげたいと思った。身の回りの世話はもちろん、リハビリのため温泉入浴施設に一緒に通った。後遺症は今も残るが、一人で歩けるまでに回復。念願の語学留学を実行に移した。足を引きずりながら搭乗口に向かう後ろ姿を見て心配がよぎり、息子を送り出す母親の心境になったという。

 いざご主人がいなくなると寂しいどころか全く平気。自分でも驚いた。料理も自分の分だけだと簡単に済む。朝寝坊もできる。畑の作物の世話だけでも大忙し。寂しい、と思う暇もなかったという。ところが…。3月11日、大震災が起きた。テレビで連日悲惨な様子を見るたび胸が痛み、「主人がそばにいてくれたら」という思いにかられた。その数日後、ご主人が無事に帰宅。笑顔で再会し今まで以上にその存在が頼もしく思えたという。