たくさんある「いい話」 (2012/1/22)

 「ほろほろ通信」欄外の「読者の皆さんへ」を読み、中区の三治和代さん(59)は思った。「いい話なんて、そうあるものじゃないわ」と。「でも何かないかしら」と名古屋駅の構内を歩いていると、前を歩いていた中年の女性が、前かがみになって何かを拾った。それは壊れたメガネだった。そばに落ちていた部品も拾い、近くの派出所へ届けた。

 三治さんは「あっ」と思った。落ちていた場所というのが、目の不自由な人たちを誘導するための黄色いブロックの上だった。ひょっとすると、利用者が踏んだら危ないと考えたのかもしれない。そんなことを思いつつ地下鉄に乗った。「こちらに座ってください」と言われ、30代の女性に席を譲られた。遠慮なく座らせてもらった。

 それから数日後のこと。三治さんの目の前の交差点で一台の車が止まった。歩道に乗り上げてきたのでヒヤリとした。中からサングラスをかけた、ちょっと怖そうな男性が降りてきた。横断歩道の途中まで駆けて行き、サッと帽子を拾った。横断中に風で飛ばされてしまったおばあさんの帽子を、わざわざ車を急停止させて取りに行ったのだとわかった。

 また、駅前でのこと。三治さんの前を女子高生が歩いていた。化粧が濃く、いかにも「今どきの格好だなあ」と思った次の瞬間、その子は駐輪場に倒れていた自転車をスッと起こすと、何事もなかったかのように去って行った。あまりにも自然な振る舞いに驚いた。これらは全部、ほんの一週間の間の出来事。「いい話は注意するとたくさんありました」と三治さんは言う。