お日様の匂いのする布団 (2012/1/29)

 江南市の石原豊子さん(80)は、自宅でご主人(85)の介護をしている。緑内障で目が不自由。耳が遠く、耳元で大声で話さないと聞こえない。何より困っているのが物忘れが多くなってきたことだ。日に何度も「わしの年はいくつだった」と尋ねる。以前、自転車で出掛けて側溝に落ち、救急車で病院へ運ばれたことがあるが、そのことが思い出せないときもあるという。

 豊子さんも3年前に脳梗塞で倒れた。今も後遺症で左半身が不自由だ。ご主人にはデイケアサービスを受けてもらいたいが、本人は健康だと思っているので「必要ない」と言う。ヘルパーさんやシルバー人材センターの方たちに、家事の手伝いをしてもらいながらなんとか生活している。

 ある日のこと、庭に出てみると隣の家の奥さんが布団を干しているのを目にした。垣根越しに、ついつい言葉が出た。「私どもでは、もう何年もお日様の匂いのする布団に寝たことがないのでうらやましく思います」。愚痴を言ってしまったかなと後悔した。その翌朝。隣の奥さんが訪ねてきた。「今日はお天気がよいので布団を干してあげましょう」。自営業をしていて昼食にはいったん帰宅される。その際、布団を取り込んでもくださった。ありがたくて胸が熱くなった。久しぶりに暖かな布団で眠ることができた。リハビリのために散歩に出掛けると、「どうですか」と声を掛けてくれる人もいる。総菜を持ってきてくれる人も。「自分が元気だった時、人にこんな親切ができていたかと思い返します。皆さんに感謝しています」とおっしゃった。