「お帰りなさい」がうれしくて (2012/6/24)

 去る三月二十四日のこと。西尾市の神谷美知子さん(64)は、帰宅したご主人からこんな話を聞いた。その日ご主人は、友人に会いに行くため名鉄吉良吉田駅から午前十時十三分発のバスに乗った。一番前の席に座ると、運転手さんが「どこまで行かれるんですか」と声を掛けてきた。「碧南まで」と答える。五十歳くらいの男性で、マスクをしているため表情はわからないが真面目そうな感じの人だった。「乗客は私一人ですが、いつもこうなんですか」と尋ねると、平日の通学時間帯だけが混雑していて土日はガラガラだという。それがきっかけでいろいろ話が弾んだ。

 さて、帰り道でのこと。碧南のバス停に行くと、運転手さんがバスの乗車口に立っていた。行きと同じ人だった。こちらの顔を見るなり「お帰りなさい」。その一言に心が和んだ。田舎のバスは人情があっていいなあ、と思った。

 実はご主人は以前、地元の小学校であいさつ運動の役員をしていたことがあった。今でも散歩に出掛けると、子どもたちに「おはよう」「お帰り」と声を掛ける。最初のうちは返事がなかったが、二、三年も続けていたら「こんにちは」と言ってくれるようになったという。それだけに今回のことは喜びも大きかった。

 「今まで、バスはもちろん電車やタクシーに乗って、一度もそんなことを言ってもらったことはありません。その運転手さんの仕事に対する熱意、さらに優しい気遣いに感動しました」。神谷さん夫婦は、そんな運転手さんがいることをみんなに知ってもらいたくて小欄に投稿くださったという。