タクシーに乗って(2006/4/6)

 病院へ行くのにタクシーを利用したときのこと。行き先を告げるなり、運転手さんに聞かれた。「ご気分は大丈夫ですか」と。一瞬戸惑ったが、すぐに合点がいった。私自身が病院へ診察を受けに行くのだと思い気遣ってくれたのだ。「いえいえ、お見舞いに行くんですよ。私ってそんなにやつれた顔をしていましたか」と答えると「そうですか、よかった」と微笑(ほほえ)んでくれた。続けて「実は、こんなことがあったものでついつい…」と話をしてくれた。

 名古屋市西区の弁天通を走っていたところ、歩道に若い女性がうずくまっているのが見えた。たまたま靴のひもでも結んでいるのか。それとも…。しばらく走ってからも気になって仕方がなかったので、来た道を引き返した。そこには、まだ女性がしゃがんだままでいた。

 車を降りて声をかけると、相当具合が悪い様子が見てとれた。「大丈夫ですか」と声をかけると、市内の大学病院まで連れて行ってほしいという。持病のため通院には、いつもなら自宅の近くからタクシーに乗るのだが、その日は気分が良かったので少し運動のつもりで歩き始めたという。ところが、途中でどうにも気分が悪くなり、とうとう一歩も歩けなくなってしまった。タクシーが急きょ、救急車に早変わりし、病院へと搬送した。本当に危ないところを助けてもらって、と感謝されたという。

 私への気遣いの一言も、けっしておせっかいではない。思いやりなのだ。世知辛い世の中だから、なおさら心にしみた。