26年前の台風の日に (2006/4/27)

 人の助けを必要としている人たちがいる。体に障害がある人、お年寄りなど。でも、つい忘れがちなのは妊婦さんだ。大きなおなかを抱えて、汗をふきつつ駅の階段を上るのを見かける。そんなとき「荷物を持ちましょうか」などと声をかけたら、こんな物騒な世の中だから、うさんくさく思われてしまうだろうか。

 碧南市にお住まいの野崎元子さん(50)から、愉快で心温まる便りが届いた。妊娠八カ月のときのことだそうだ。知立市から実家の碧南市大浜地区まで行こうと最寄りの駅まで出掛けた。ところが、台風の影響で電車が不通に。夫は夜勤で不在。一人でどうしようかと困っていたら、サラリーマンらしき一人の男性が声をかけてきた。

 「奥さん、どちらまで行かれますか」。それに「大浜まで行きたいのですが、タクシーだとずいぶん高いですよね」と答えた。その男性は、すぐさま近くの二人の男性にも声をかけ、言われるままタクシーに相乗りすることとなった。車中は見知らぬ者同士なのに、運転手さんも含め話が弾んだ。

 さて、一人目は刈谷市で降り、そこまでの料金を支払った。次の人は高浜市でメーターの差額分を支払い降りた。声をかけてくれた男性は、碧南駅近くまで来ると「良い赤ちゃんを産んでください」と言い残して、またそこまでの差額を支払い去って行った。最後に、野崎さんが実家の前でお金を支払おうとすると、運転手さんは「三百二十円です」という。(安すぎる!?)一瞬戸惑ったが、それは三人の男性の気遣いであったことにそのとき初めて気が付いた。

 野崎さんはこう結ぶ。「あの台風の日の皆さん、覚えていますか。おなかの子も二十六歳になりました」。困ったときの思いやりや気遣いは、いつまでも心に残るものだ。ほろほろと。