第4回恋文大賞入選作から(その3)

「ありがとう」の思いを伝えたい

 京都に柿本商事株式会社という会社があります。紙専門の商社です。寺町通りで「紙司柿本」という小売店も経営しています。偶然ですが、この店の大ファンで「かばんが重いよ~」と後悔するほど、ハガキや便箋を買い込んだことがあります。
 柿本商事さんではCSRの一環として、2010年から「恋文大賞」というコンテストを始められ「心温まる言葉、心にぐっと響く言葉、そのような伝えたい思いを、紙にしたためご応募ください」と全国に呼び掛けられました。
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 その後、2015年に一般社団法人言の葉協会を設立し、名前を「言の葉大賞」と替え、年々、応募数が増加しています。
 第4回恋文大賞(テーマは「「ありがとう」の思いを伝えたい。」)の入選作品から、紹介させていただきます。

入選作品

「天国の浩志くんへ」兵庫県宝塚市 原口佳代(53歳) 

 もう迎える事のできない誕生日、結婚記念日。ふと想い出しました。初めて出会った日のことを。

 「行ってきます」「行ってらっしゃい」の言葉が最後になるとは思ってもみませんでした。それから約20分後、JR福知山線脱線事故が起きるなんて、まさかこんなに寂しく苦しい日々が来るなんて思ってもみませんでした。いつものように「おかえりなさい」と云えると思っていました。その日は雲ひとつない青いきれいな空でした。突然空に舞い上がったあなた。私ひとりを残して旅立ってしまいました。あなたのところへ逝きたいと思いました。寂しくて寂しくて何度も何度も泣きました。

 最後に旅した長崎のハウステンボスで見たチューリップのじゅうたんが忘れられず、いつしかチューリップを集める事が生きがいになりました。今では家中チューリップの花やグッズでいっぱいです。事故後どうしても行けなかった想い出の場所へ八年経ってやっと行く事が出来ました。あの時と同じ満開のチューリップ。どうしてあなただけがいないのだろう……。涙が止まりませんでした。でもチューリップの前で約束しました。どんなに辛くても泣かずに負けずに生きてゆきますって。

 涙と悲しみの日々は私を強くしてくれました。私は今再びあなたに恋をしています。夢の夢だとわかっているけれど、あなたに逢いたい。返事の来ない恋文を書きながらあなたの笑顔がぼやけて見えません。本当に本当にあなたが好きでした。この想い、あなたに届くかしら……。

 あなたが逝って八年、たくさんの人と出逢い、優しさや思いやりに感謝という温かさを感じれるようになりました。幸せをありがとう。出会ってくれてありがとう。最後に我がままを云ってもいいですか。私がそっちへ逝った時あの優しい笑顔で迎えて下さい。そして「おかえりなさい」って云わせて下さい。あなたに出会えて心から幸せです。もう少しこっちで精一杯生きてみます。待っていて下さい。心の中にいるあなたへ

「ありがとう」

入選作品

「息子は新聞配達のお兄さん」群馬県太田市 広瀬悦子(57歳) 

 「お母さんは、僕のことを息子のように慕ってくれました」

 電話の向こうで、新聞配達のお兄さんは私に言いました。母は、今年一月に自宅の部屋で倒れ、十五日間発見されず亡くなりました。電話の「し」の欄にその人の名前がありました。

 遺品の整理をしたところ、日記に優しくされた様子が伺われました。「干した布団を入れてください」「箪笥を動かしてください」と配達の合間に頼まれていたのでしょう。二人の息子を亡くし、寂しく遺影に手を合わせていた母でした。息子が帰ってきたように嬉しかったのでしょう。

 感謝の気持ちで電話をすると、「私のことを息子のように慕ってくれました」。そして「何か、お手伝いをさせていただきたい」と、心に染み入る心配りでした。

 本当に母は幸せ者だったと感じました。まだ見ぬ新聞配達のお兄さんは、母の三番目の息子だったに違いありません。

 配達のお兄さん、ありがとうございます。

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「「ありがとう」の思いを伝えたい。」

「恋文大賞」編集委員会【編】京都柿本書房

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