第11回言の葉大賞入選作から(その2)

~募集テーマ「壁」

 一般社団法人「言の葉協会」では、全国の小・中学校、高等学校から毎年のテーマに合わせた大切な人への思いや強く感じた気持ちを自分の言葉で綴る作品を募集し、その優秀作品を「言の葉大賞」として顕彰しています。
 第11回言の葉大賞のテーマは「壁」です。その入賞作品から、紹介させていただきます。

優秀賞

「松葉杖が教えてくれたこと」立命館守山高等学校 1年 大八木 望

 私は十六歳にして初の松葉杖での生活を経験した。中学生の頃からよく怪我はしていたけれど足の怪我は初めてだった。包帯でぐるぐる巻きになった左足は自分の体ではないような不思議な感覚だった。

 松葉杖生活初日。私の全身はたった一日で限界に達した。怪我をしている足以上に、手の平や脇、腕が痛くて痛くて仕方がない。松葉杖を甘くみていたことを深く後悔した。世の中はハンデを持つ人に優しくない。学校までの道のりだけでも段差、段差、段差…狭いトイレには入るだけで一苦労。普段当たり前に歩いている道も、休憩しながらでないと歩ききれない。毎朝いくつもの分厚い壁を超えて登校している気分だった。他にも私には恐れていたものがあった。それは「人からの視線」だ。元々人に見られることがあまり好きでない私は松葉杖をついているだけで人に見られてしまうのではないかと心配していた。

 松葉杖生活の間、私は通常では考えられない程の視線を感じた。しかしそれは優しさの目だった。「ゆっくりで良いから気をつけて降りてね」と言ってくれたバスの運転手さん。「お大事にね」と優しく声を掛けてくれた腰の曲がったおばあさん。駅のホームで椅子を譲ってくれたお兄さん。エレベーターから出る時、扉を押さえてくれた先生。一緒に歩く時、自然と私に合わせてゆっくり歩いてくれた友達。たくさんの人の温かな視線、気づかいを感じて怪我をしているはずなのにたくさんの喜びを感じた。

 そして迎えた松葉杖とお別れの日。ほんの少しさみしい気がした。左足の筋肉は少し落ちてしまったけれど、松葉杖生活で人の優しさに触れた私は前までとは違う。以前は少し迷ってしまっていたことも今は自然と。

 「ここ座ってください」

 「急がなくて大丈夫ですよ」

 今の私に心の壁はない。たくさんの人にもらった優しさを返す番だ!!

優秀賞

「僕らしく生きたいだけ」京都産業大学附属高等学校 3年 荒木 志保

 いきなりだが、僕は性的少数者だ。近年、世間一般に知られるようになった「LGBT」に代表されるが、僕はその「LGBT」の枠にも収まらない。僕の性自認は、「Xジェンダー」、男でも女でもない性だ。と言われて理解できる人はどのくらいいるのだろうか。その認知度の低さと性的少数者に向けられる差別や好奇、偏見の目こそが僕のいや、僕らの「壁」だ。

 性的少数者も様々で、一概にまとめることはできないので、ここでは僕一人のことを例として挙げることとする。

 まず、僕の身体は女だ。それ故に女らしさや女でいることを強要されることは少なくない。例えば制服のスカートやリボン。そして僕が最も違和感を持つのが一人称だ。ここまでまるで当たり前のように「僕」を使っていたが、社会の当たり前を適応するならば「私」でなくてはいけない。

 でも僕は「僕」を使う。これは僕自身が「私」で自身を表すことが苦痛だからだ。無論僕自身、一人称を僕にするまで葛藤がなかったわけではない。社会からズレることを意味するからだ。

 僕は男でも女でもない。それをわがままと言う人は少なくない。LGBTを流行と言う人も増えている。それは僕らの壁を高くしている。僕は僕の生き辛さや葛藤をそんな言葉で片付けられたくない。本当なら友人と「普通の青春」を謳歌したかった。

 しかし、女であることが苦痛で、男でもない僕が、「普通」でいられるわけがない。僕は僕らしく生きたいだけなのに世間から敬遠される。僕はそれを許したくない。壁を作らず、皆が生きやすい社会を夢見てしまう。

 これは綺麗事かもしれないが、まずは僕のような人間の存在をより多くの人に知ってもらい、理解できなくとも否定しないでもらいたい。誰もが生き辛さを感じない社会こそが壁がない社会で、目指すべき社会だと考えている。

 僕はこれからも僕らしく生きるだけだ。

他の「言の葉大賞」の受賞作品や、次回「言の葉大賞」の応募要項は、こちらをご覧ください。
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入選作品集「「言葉の力」を感じるとき」Ⅰ・Ⅱや「言の葉CONCEPT BOOK」がお求めになれます。
  
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