第10回言の葉大賞入選作から(その3)
「『失敗から』学んだこと」
一般社団法人「言の葉協会」では、全国の小・中学校、高等学校から毎年のテーマに合わせた大切な人への思いや強く感じた気持ちを自分の言葉で綴る作品を募集し、その優秀作品を「言の葉大賞」として顕彰しています。
第10回言の葉大賞の入賞作品から、紹介させていただきます。
「幾つになってもプライド」福岡県 井室 秀子
ふり返ると79年の私の人生は、失敗の連続だった。
多くの失敗の中で一番大きな失敗は、私の心ない言動で友人や知人、先輩のプライドを傷つけてきた事である。
認知症の人が暮らすグループホームでの事。入浴が嫌いで何日もお風呂に入らないAさん。
そんなAさんに私は思わず「3日もお風呂に入らないなんて汚いでしょ。今日は絶対お風呂に入りますよ。」と上からの物言いをしてしまった。
ひどくプライドを傷つけられたAさんは、怒り心頭。「どうしてあんたに命令されてお風呂に入らんといけんのネ。私は、お風呂入らん!」と完全に拒絶されてしまった。
どうすれば気持よくAさんは入浴してくれるだろうか?浴室にさえ入って貰えれば不思議にその後の流れはスムーズにゆくのに。
色々と悩んだ末、ふとひらめいた。
そうだAさんは若い頃看護師だった。これを活用しよう。
入浴の時間。私はAさんの耳に小声でさゝやいた。「Aさんちょっとお願いが―。お尻に腫れ物が出来ちゃって。恥ずかしいけど見て貰えませんか?」
Aさんは心配そうに「じゃあちょっと…」という訳で、私といっしょにトコトコ歩いて浴室へ。
めでたくお風呂をすませたAさん。小ざっぱりしたAさんの姿に私は思わず心の中で「バンザイ」と叫んだ。
どんなに年を取っても、認知症がひどくなろうとも、人により差こそあれ最後まで残るもの。それがプライド=尊厳。
お互いのプライドを尊重し思いやる事で、人間関係をスムーズにし、仲よく暮せる。
こんな大事な事をAさんから学ぶことが出来た。
「金魚の命から」京都市立高倉小学校 6年 明 渚彩
小学校四年生の夏、お祭りで金魚すくいをして十五匹もすくえました。たくさんすくえたので私はとてもうれしくなり、どの金魚にも愛着がわいてきました。すべて家に連れて帰って飼いたくなり、父や母の言うことを聞かず、十五匹全部の金魚を持って帰りました。
家の水そうはそれほど大きくなく、金魚十五匹を入れるとかなりきゅうくつそうに見えましたが、私は十五匹全ての金魚を持ち帰れたことに満足していました。えさをたくさん与えて、金魚が食べている姿をながめて楽しんでいたのですが、あっという間に金魚のふんと、食べ残したえさで水がにごってしまいました。水をかえて、様子を見ました。
二、三日たって、金魚に異変が起こりました。一匹の金魚が傷を負っていて、数匹の金魚につつかれていました。次第に傷を負った金魚は弱っていき、しまいには死んでしまいました。私は大切に育てていたつもりだった金魚のうちの一匹を死なせてしまったのです。
それから悲劇の連続です。数日間のうちに金魚が次々と死んでいき、水そうの中には金魚が一匹もいなくなってしまいました。私は悲しくて、悔しかったです。それと同時に、なぜこの短期間のうちに、これだけの金魚が死んでしまったのか考え、調べてみました。家の水そうの大きさだと、金魚は五匹くらいまでが限界であり、私はそれをはるかに超えた数の金魚を入れてしまっていたのです。きゅうくつそうに見えた金魚たちは、やはりきゅうくつだったのだろうと思いました。
この夏、お祭りで金魚すくいをして、たくさんすくえたけれども、私は大きい金魚を二匹、妹は小さい金魚を二匹選び、再び四匹の金魚を飼い始めました。それから三週間たって、水草に金魚が卵を産みました。ふ化するかどうかはわからないけれども、金魚は今も四匹とも元気で生きています。私はそれから学びました。ただ可愛がるだけではなく、責任を持って育てないといけないんだ、と。
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入選作品集「「言葉の力」を感じるとき」Ⅰ・Ⅱや「言の葉CONCEPT BOOK」がお求めになれます。
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