第8回言の葉大賞入選作から(その3)

 「『未来の自分』を描いたとき」
                      
 一般社団法人「言の葉協会」では、全国の小・中学校・高等学校から毎年のテーマに合わせた大切な人への思いや強く感じた気持ちを自分の言葉で綴る作品を募集し、その優秀作品を「言の葉大賞」として顕彰しています。
 第8回言の葉大賞の入選作品から、紹介させていただきます。

「もうちょっと頑張れ」中野 帆乃香

 わたしは生まれつき、百人に二、三人がもつ病気「先天性耳ろう孔」を持っていた。そのことは、小さい頃から知っており、時にはえんしょうも起こしていた。ある日、耳の所がはれて、病院へ行った時は、また来てくださいと言われただけだった。

 医者に手術のことを告げられる日、私は母に連れられて病院へ行った。
「手術をすることになりました。」

そう言われた時、私はドキッとした。初めての手術ではなかった。でも、耳を切られると思うと信じられなかった。こわかった。死んじゃうんだ、そう思った。それから間もなく、入院の日が来て、手術の日が来た。ストレッチャーに乗せられ、最後に言った言葉。
「行ってきます…。」

  気が付くと、手術は終わっていた。目を開けると横には母がいた。
「頑張ったね。」

 生きていた。良かった。苦しかった。さみしかった。嬉しさと苦しさが入り混じって複雑な気持ちになり、目から涙が溢れた。口から酸素マスクをとろうと手をやった。母はそれをさえぎるように何も言わずに手で押さえた。息苦しいし、水さえも飲めなくて、また涙があふれた。

 「もうちょっと頑張れ」

 母のなにげないその一言が、私の胸をうった。母は私の心を知ってくれているんだ。そう思うと「頑張らなきゃ。」という気持ちが強くなった。

 私は今でも三年前のあの日の出来事をしっかりと覚えている。今、私たちはここに生きていること、つらい時になぐさめてくれる人に感謝して、日々の生活の一分、一秒を大切に生きることが大事だと感じた。

志賀内泰弘

 うかつに「わかるよ」とは言えない自分がいます。苦労や悩みは、その人にしかわからないからです。中でも、病気の手術となったら、なおさらです。
 でも、その不安な気持ちも「母親」なら理解できます。
 博愛。無償の愛で子供のことを心配しているから。
 「もうちょっと頑張れ」
 その一言の「重み」に、とてつもない「温もり」を感じました。

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入選作品集「「言葉の力」を感じるとき」Ⅰ・Ⅱや「言の葉CONCEPT BOOK」がお求めになれます。
  
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