第7回言の葉大賞入選作から(その3)

「今、ここに教育現場が在る」

 一般社団法人「言の葉協会」では、全国の小・中学校・高等学校から毎年のテーマに合わせた大切な人への思いや強く感じた気持ちを自分の言葉で綴る作品を募集し、その優秀作品を「言の葉大賞」として顕彰しています。
 第7回言の葉大賞の入選作品から、紹介させていただきます。

「自分の道」深谷 京子

 中学二年生の息子が不登校になった。素直で明るくて、おしゃべりが大好きな息子が「行きたいけど行けない」と。

 まさか、自分の子どもが不登校になり、引きこもってしまうとは考えてもいなかった。それだけに、原因が何か突き止めようと焦った。そして、私自身の子育てがいけなかったのでは? と自分を責めることしかできなかった。毎日のように泣いていた私。何を見ても、何を食べても、誰と話しても悲しくなってしまう。心のやり場のない日を半年ほど過ごした。

 ある朝、息子から山の景色が見たいから山にドライブに連れて行ってと言われた。久しくどこへも行っていなかったので、息子とスマホで行き先を調べて二人きりのドライブ。忘れかけていた本来の息子がそこにいた。久しぶりに心が解放され、息子がこんなことを言った。「オレは母さんみたいには生きられないけど、オレがオレらしく生きられるよう悩ませて」と。何も考えてないわけでなかった。

 むしろ、他の誰よりも自分のこれからの行き先を考えていたからこそ苦しくなったんだと思った。私は、息子に自分の価値観を押し付けていたのかもしれない……。その一言が私の心のモヤモヤしたものを全て吹き飛ばしてくれた。

 それから私は、息子を信じると決めた。不登校になった原因探しもやめた。彼の興味のあることに目を耳を心をかたむけてみた。すると共通の話題がたくさんできた。笑いも増えた。もっと自分に目を向けろとメッセージを送ってくれていたのに私も気づけなかったことに気づかされた。

 中学三年生になった息子は、学校へ行きはじめた。「オレ船の勉強したいから、船の学校行きたい」と言われた時、嬉しくて号泣した。彼のこれから歩む道を母なりに全力で応援していきたい。

「人の事を想う」私立滝高等学校 北沢 裕亮

 「裕亮はこれから毎日、自分のことは自分でやろうね。お手伝いもしっかりしてね」

 小学三年生の夏、母に突然言われたこの言葉。その頃我が家では、父が事故で亡くなり、悲しむ暇もなく、新たな生活を始めなければならなかった。

 母は毎日仕事に出た。朝はとてもとても早かった。それでも朝起きると栄養満点の食事が並んでおり、お腹を空かして帰ると、おいしい晩ご飯が待っていた。父が生きていた頃と変わったのは、朝自分で起きて、使った食器を自分で洗うことだけだった。そんな時、兄が僕に一つの提案をした。食事を自分たちで用意しようと。僕も母を助けたいと思っていたため、迷うことなく承諾した。

 そこから兄との料理の日々が始まった。けれど、僕は今まで料理をせずに生きてきたから、まずは兄におそわった。最初は目玉焼きだった。初めは玉子の殻が入ってしまったが、一週間続けるとなくなり、一ヶ月もするとおいしい焼き方がわかってきた。次はお米の炊き方、その次は味噌汁の作り方を教わり、とうとう夏が終わる頃には、朝ご飯を毎日準備するようになっていた。

 そして、朝ご飯を作るようになってから何日かたった日、突然母が泣きながらこう言った。「あんたたち二人は、もう私がいなくても生きていけるね」まだ僕はお金も稼げないし、掃除もできなかったけど、母が悲しくて泣いているのではなく、喜びを感じているのは確かに分かっていた。

 父がこの世をあとにしてもう6年。たくさんの人に支えられて、僕はここまで生きてきた。僕はもうたいていの料理はできるし、掃除だって祖母に教えてもらったから完璧だ。お金が稼げるようになったらもう自立することができるだろう。そう思えるのも、全ては母を想って兄と料理したあの日々にある。生きぬく力、それは人を想って何かをすることだと僕は思う。

他の「言の葉大賞」の受賞作品や、次回「言の葉大賞」の応募要項は、こちらをご覧ください。
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入選作品集「「言葉の力」を感じるとき」Ⅰ・Ⅱや「言の葉CONCEPT BOOK」がお求めになれます。
  
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