第7回言の葉大賞入選作から(その2)

「今、ここに教育現場が在る」

 一般社団法人「言の葉協会」では、全国の小・中学校・高等学校から毎年のテーマに合わせた大切な人への思いや強く感じた気持ちを自分の言葉で綴る作品を募集し、その優秀作品を「言の葉大賞」として顕彰しています。
 第7回言の葉大賞の入選作品から、紹介させていただきます。

「丁寧に生きる」澤木 真理子

 すべてに投げやりになっていました。

 夫が6年前に急死し、その後4人の息子達は次々と就職、結婚して孫も誕生した。息子達は近くに住み、時々家族で食べに来たり、孫の顔を見せに来てくれる。パート勤めをしながらぜいたくをしなければ何とか暮らしていける、そんな一人暮らしが続いていました。

 何の不満もないはずなのに心の底からは楽しい気分になれない。そんな自分自身が嫌でいつも自分を責めていました。

 きっと淋しいのだろう。ずっと六人家族で賑やかだった家の中も、今はテレビやラジオをつけないとひっそり静まり返っています。

 あと何十年こうして一人で生きていくのかと思うと辛くて「早く迎えにきてよ」と毎日夫の写真に手を合わせてお願いしていました。そんな時に読んだ、高田郁さんの時代小説の中にあった言葉が、まるで今の私に語りかけてもらっているように思えたのです。

「亡くなった人に安心してもらえるように毎日を丁寧に生きていこうじゃねーか」と。

「毎日を丁寧に生きる」

 「丁寧」とは、「細かい所まで気を配ること。言動が礼儀正しく心がこもっていること」と辞書にありました。

 夫は丁寧な生き方の人でした。几帳面ではないけれど、人の心を大切にして心がこもった生き方をしていたように思います。

 息子達も突然父を亡くして不安で淋しいはずなのに、一人暮らしの私を心配してくれている。そんな気持ちを知りながら、自分の淋しさから逃げる事ばかり考えていた私。

 もし、今のままの私が死んであの世というところで夫に会ったら、きっと情けない顔をするだろうな。淋しい顔をするだろうな。

 丁寧に生きてみよう。

 「母さん、ようがんばったなぁ」と、夫に笑顔で迎えてもらえるように。

「一通の手紙」私立麗澤瑞浪高等学校 西尾 ひより

 「私は一人ぼっちなんだ」

 そう思ったのは、中学二年生の時である。

 当時、私の学級ではいじめがあった。私は友達がバイキン扱いされたり陰口を言われたりしているのを見ているのが辛くて、私一人でも側にいて励まそうと、行動を共にしていた。その友達が笑顔になってくれた時は、とてもうれしかった。

 しかし、しばらくすると、陰口や物がなくなるということが私にも起こるようになってきた。何とかしたくて、自分で考えられることは全てやった。その友達から離れることも考えたが、それだけはどうしてもできなかった。私に移ってきた悪口が次は別の友達に移っていったらと思うと、誰にも相談できなかった。家族にも相談できなかった。

 ふと周りを見渡してみたら、私には私を分かってくれる人が誰もいないように見えた。そんな時、一通の手紙が届いた。

 私の母の同僚の方からだった。

 私の様子の変化に気付いた母がその方に相談したと思われる。

 「正直者は馬鹿を見る、という表現を聞いたことありますか? 正直に生きることは傷ついたり、損をしてしまうことがある。多大な勇気とパワーがいる。しかし、正しいと思う道に向かって生きることで、周りの人が勇気やパワーをもらい、あなたを応援してくれる。僕はあなたを応援します。そしていつでも相談に乗ります。がんばってね!」

 顔も声も知らない方からの手紙だった。私は涙が止まらなかった。
「私は一人じゃないんだ。間違ってないんだ」

 そう思ったとき、私の周りに応援してくれる誰かがいるかもしれないと、顔を上げられるようになった。そして私は私らしく生き抜こうと強く思うようになった。その手紙は今の私の原動力となって私を前に向かせている。

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