第6回言の葉大賞入選作から(その6)

「言葉の力」を感じるときⅡ

 京都に柿本商事株式会社という会社があります。紙専門の商社です。寺町通りで「紙司柿本」という小売店も経営しています。偶然ですが、この店の大ファンで「かばんが重いよ~」と後悔するほど、ハガキや便箋を買い込んだことがあります。

 さて、柿本商事さんではCSRの一環として、言の葉大賞というコンテストを開催しておられます。「心温まる言葉、心にぐっと響く言葉、そのような伝えたい思いを、紙にしたためご応募ください」と全国に呼び掛けられました。

 第六回言の葉大賞の入選作品から、志賀内が特に心に響いた作品を紹介させていただきます。

入選 高校生部門

「不器用な父の優しさ」鹿児島県鹿児島市 鹿児島県立武岡台高等学校1年 小山田 実奈代

 私は、あまり自分の父親と上手く話せない。ケンカをしているわけでもないのに、いつも顔を合わせても「おかえり」「ただいま」の会話で終わってしまう。

 受験生だったときも、たくさん相談に乗ってくれた母や姉とは違い、志望校が決まらず悩んでいた私に「お前の好きな道に進めばいい」と一言つぶやくだけだった。そんな父に「私のことなんかどうでもいいのかな」と思っていた。

 最後の進路希望調査を提出しなければいけないときも私は志望校を決められずにいた。そんなとき、いつもは母が迎えにきてくれる塾まで父が迎えにきてくれた。このときも私と父は一言二言交わすと父は運転に集中し、私は暗記ノートに集中した。

 家に着くと、父は私を部屋に呼んだ。すると、一つのノートを見せてくれた。そのノートには、高校の情報がびっしり書かれていた。母に聞くと、高校の教師をしている親戚や友達にいろんな事を聞いてまとめていたそうだ。私が驚いていると父は「お父さんにはこんなことくらいしかしてやれないから」と、新聞を読み始めた。いつものようにそっけなかったが、最後のページに汚い字で「お前ならどこにいっても上手くいく」と書いてあった。

 私は、今まで不安だった気持ちが急に軽くなった気がした。それからそのノート頼りにギリギリまで悩み、進路希望調査を提出した。まだ自信は持てなかったが、少し道が開けた気がした。

 受験当日、父は先に仕事に行っていた。いつものように牛乳を飲もうと牛乳パックを出した。そのパックには「飲むだけで大丈夫」と書かれていた。誰が書いたかは汚い字を見ればすぐに分かった。不器用な父の優しさが感じられた。私は牛乳を一口飲んだ。自然と笑顔がこぼれた。父の汚い字は強い心の支えになった。

他の「言の葉大賞」の受賞作品や、次回「言の葉大賞」の応募要項は、こちらをご覧ください。
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