第6回言の葉大賞入選作から(その3)

「言葉の力」を感じるときⅡ

 京都に柿本商事株式会社という会社があります。紙専門の商社です。寺町通りで「紙司柿本」という小売店も経営しています。偶然ですが、この店の大ファンで「かばんが重いよ~」と後悔するほど、ハガキや便箋を買い込んだことがあります。

 さて、柿本商事さんではCSRの一環として、言の葉大賞というコンテストを開催しておられます。「心温まる言葉、心にぐっと響く言葉、そのような伝えたい思いを、紙にしたためご応募ください」と全国に呼び掛けられました。

 第6回言の葉大賞の入選作品から、紹介させていただきます。

入選 中学生部門

「神様どうか助けてください」宮城県石巻市 石巻市立蛇田中学校2年 今野 翔

 「神様どうか助けてください」この言葉は、自分の力ではどうしようも出来ないときに使う言葉で、普段はほとんど使いません。しかし、4年前の東日本大震災のとき数えきれないほど使いました。

 あの日、家族の中でたった一人帰ってこない父を心配して待っていました。その晩、ラジオから流れてくる情報は、悲惨なことばかりでした。当時、父の職場は海の近くにあったので、同じめにあっているのではないかと不安でしかたがありませんでした。

 そのとき、心の中で何度も何度も繰り返した言葉が「神様どうか助けてください」でした。これを言うことで不安な気持ちがほんの少しだけなくなり、本当に神様が願いを叶えてくれるのではないかと思いました。その日は、父は帰ってこなく、連絡もこないまま次の朝を迎えました。

 次の日、おばと母と僕は、父の手がかりを探しに行きました。父の職場の近くまで行こうとしましたが、消防団員の方に「ここから先は行けない」と言われ、支所では「魚町は壊滅状態です」と言われました。ぼくは救助した人たちを乗せて飛んでいる自衛隊のヘリコプターを見ながら、何度も何度も神様にお願いしました。今思えば、この言葉を繰り返すことによって何とか自分の心を落ち着かせることができたと思います。

 次の日の朝、すごくうれしいことが起こりました。なんと父が家の前に立っていたのです。波にのまれながらも救助されて助かったとのことでした。

 父が帰ってこない間、ぼくを助けてくれた言葉ですが、できればもう二度と使いたくない言葉です。でも、長い間生きていく中でまた使うことがあるかもしれません。

 「神様どうか助けてください」と。

入選 高校生部門

「祖父が残したメッセージ」北海道旭川市 私立旭川龍谷高等学校1年 髙張 穂乃花

 何も知らされぬまま入った病室で目にしたものは、人工呼吸器につながれた祖父の姿だった。言葉を失い涙が止まらなかった。意識はなく体からほんの少しの温もりが伝わってくるだけ。その数時間後、祖父は静かに息を引きとった。あまりにも急な死であった。

 思えば三年程前、医師からがん再発の告知を受けた祖父。「手術も治療も受けられる状態ではない」と告げられた。私は母からその話を耳にした時涙が止まらなかった。その事実を受け入れられなかった。告知を受けた祖父もきっと大きなショックを受け、厳しいこの現実を受け入れられないでいると思っていた。

 「告知を受けることは必ずしも不幸なことではないよ」予想外の祖父の言葉に私は驚いた。

 告知を受け入れるということは、死に向かって生きようと決意したということ。つまり、告知を逆手にとって残りの人生で生きているうちにやれることはしっかりやると心に決めたのではないかと思う。

 今、あの時の祖父の言葉を改めて考えてみると、これまでの私は明日という日が当たり前に来ると思っていた。だから今日出来なくても明日出来ると先延ばしにしていたこともあった。まだまだ祖父に伝えたいことが沢山あったのに当たり前の明日はこなかったため伝えられなかった。もし、前の日に会えていればこんなにも後悔することはなかったと思う。

 祖父が厳しく辛い現実を受け止め、真っすぐに生きていたように、私も毎日を懸命に生きていきたい。厳しい現実に直面した時に、「もうだめだ」と感じてしまいがちな自分を変えたい。そう思えたのも祖父が残してくれた言葉のおかげである。

 生前、体調が悪い中でも私の姿を見に中学校へ足を運んでくれた祖父。辛い時、苦しい時には心強い言葉をかけてくれた。そんな祖父の思いを心に留め、これから先の人生につなげていきたいと心から強く思っている。

他の「言の葉大賞」の受賞作品や、次回「言の葉大賞」の応募要項は、こちらをご覧ください。
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【発行】一般社団法人言の葉協会
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