池田く~ん

鹿児島県の小・中・高等学校一環教育校の池田学園が、以前発刊していた総合誌「学び」
の36号から、副理事長の池田真実先生のエッセイを紹介させていただきます。

志賀内泰弘
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「池田く~ん」

池田学園副理事長 池田真実

一つのことを続けることの大切さを教えてくれたのは、
大学時代に経験したアルバイトだった。
4年間、無遅刻、無欠勤だったことは私にとって心の勲章となっている。

社会勉強のつもりで短期間だけという軽い気持ちで始めたアルバイトだったが、
学生の本分を忘れるくらいに熱中してしまった。
それは、良きアルバイト仲間に恵まれていたからである。
大学卒業時に彼らに書いてもらった色紙は、
二十数年経った今でも大切にしまってあり、
時おり眺めては思い出にふけっている。

忘れられない朝がある。
その日は、朝早いアルバイトだった。
いつものように目覚まし時計をセットして就寝したが、
いつも朝早く目覚める私にとって目覚ましとは「保険」にすぎなかった。

しかし、この日ばかりは、なぜか時計のアラームを止めた記憶がない。
熟睡していて「保険」も利かず、「体内時計」も鳴らなかったのである。

しかし、「天の声」で目覚めた。
声の主は私が住むアパートの家主さんだった。
「池田く~ん」
という声に飛び起きた。
その日に限って「閉まったままのカーテン」が気になり声をかけたということだった。

この天の声でどうにかアルバイトに間に合った。
情報化社会、核家族化、価値観の多様化などで人間関係が希薄になった今の時代では、こういった話は稀になってしまった。
常に気を配り声をかけて、
家族同様に扱って下さったあの優しい家主さんは、今はもうこの世にはいない。
しかし、
「池田く~ん」
の声は、今でも天からはっきりと聞こえてくる。
「おばちゃん、ありがとう」